536発目 ツイートの話。


バルタン星人

 浜松町から羽田空港に向かうモノレールは、土曜日の夕方のせいか比較的空いていた。窓の外の景色はすっかり陽が落ちて、ビルやマンションは照明を灯していた。4人がけのボックスシートの進行方向に対して背を向ける位置に座った私は、隣の同僚と談笑していた。正面には落ち着きのないオッサンが座っている。

 

オッサンは物憂げそうに外を眺めていた。貧乏ゆすりが激しい。同僚との会話に夢中だったため最初は気がつかなかったが、耳を澄ますと、どこからかスースーという空気の音がしている。会話が途切れたのをきっかけに私はその音の元を探そうとした。

 

空気の音の元は容易に見つかった。 正面に座るオッサンの鼻息だった。 ガラスにおでこがくっつくくらい近寄っている男性の鼻の位置だけが曇っている。次第に鼻息は激しくなり、今ではパスーパスーと隣の同僚も気がつくほどの音量になっていた。音楽で言うとフォルテシモくらいの音量だった。隣に座る同僚を見ると怪訝そうな表情でオッサンを見ている。

 

東京流通センターの解体現場が窓の外に見えてきたその時、オッサンがつぶやいた。

 

「ぶっ壊してるジャン!」

 

それがきっかけとなったのか、オッサンのつぶやきは勢いを増した。

 

「一人ひとりが気をつけなきゃな。」

 

「養老の滝がオレのふるさとだ。」

 

「明日は早起きしてしるこを食べよう。」

 

私はもう一度、同僚の顔を見る。 彼は無視しようと決めたのか、そっぽを向いていた。 そうだろう。それが賢明だ。この手の輩は関わるとややこしい。私は経験上、それを知っていた。

 

やがてモノレールは羽田空港第一ターミナルに到着した。ANAを利用する同僚とはここでお別れだ。私は挨拶を済ませ、モノレールを降りた。 オッサンも私と同じ駅で降りた。私は駅のホームで立ち止まり同僚を見送る。車窓越しに一礼し、手を振った。 さて、チェックインでもしようかと、駅の改札に向かった。

 

改札を抜け、チェックインカウンターのある2Fへと向かう。ビッグバードの吹き抜けに2Fまで一気にいけるエスカレーターが私を待っていた。エスカレーターを上がりきったところに先ほどのオッサンがいた。フロアの上にチラシらしき紙を広げている。見るとは無しに横を通り過ぎるときにオッサンの手元を覗いてみた。 ウルトラマンのチラシがたくさん広げてあった。1月11日まで行われていた東京ドームでのウルトラマンイベントのチラシだった。

 

私は立ち止まってしまった。興味がなかったと言えば嘘になる。

 

オッサンは傍らに立つ私を見上げ、つぶやいた。

 

「エレキングが一番強いんだ。」

 

私は関わってはいけないと分かっていつつ、返答してしまった。

 

「ゼットンの方が強いだろ?」 と。

 

オッサンは顔をみるみる赤く染め、私に言い返した。

 

「ハイパーゼットンの方が強い!」

 

その意見に関しては私も異論はなかった。 私の中で警鐘が鳴っている。 関わるな!そいつとは関わるな! と。 私も自分の中の意見に同調し、オッサンを無視してその場を立ち去ろうとした。 と、その時オッサンがもう一度つぶやいた。いや、叫んだのだ。

 

「もう一度言うぞ!」

 

正直に言うと、気になった。 何をもう一度言うのだろう?

 

私は振り返り、彼の言葉を待った。

 

オッサンはすっくと立ち上がり天井を見上げつぶやいた。

 

「ふぉっふぉっふぉっふぉっふぉ」

 

おい!

 

何が、もう一度言う!だ?

 

ソレはバルタン星人だろ!

 

私は、やはり当初の予定通り、この男に関わるのをやめ、札幌行きの飛行機の搭乗口へと急いだ。

 

東京って

 

ヘンナヤツオオイネ

 

合掌

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