清宮に呼び出された堺は
川口へ車を向けていた。
電話の口調からすると
嫌な予感が拭い去れない。
杞憂であってくれと願うばかりだった。
清宮宅に到着した堺は
玄関まで出迎えに来てくれた
清宮の表情を見て
嫌な予感が当たったことを
知った。
『どうなさいました?』
『とにかく上がってくれ。』
書斎に入ると清宮は
内線電話でしばらくは
誰も入室させるな、と
指示し、堺にソファーに
座るように言った。
堺の向かい側にどっかと
腰を下ろした清宮は
深いため息を一つ、つくと
ぽんと封筒をテーブルに置いた。
堺はその封筒を開け、中の便箋に
目を通した。
そこには清宮が行ってきた
政治献金や裏取引など
悪事と言う悪事の全てが
詳細に記述されていた。
『いったい、誰が?』
『分からん。私と君しか
知らないようなことも
調べ上げている。』
そう言って清宮は堺をちらっと
見た。
『ま、まさか私を?』
『いや、君の事は信じておるよ。
君が私を裏切っても何の
メリットも無いことくらい
わかってるだろ?』
『で、どうします?』
『差出人を突き止めろ。
アイツは動けるのか?』
『サカナは常に指示を
待っていますよ。ただ、
つい先月ですが対抗組織に
狙われたばかりです。』
『とにかく差出人を突き止めろ。』
清宮は話は以上だと言わんばかりに
部屋を出て行った。
堺は清宮の家を出ると
その足で池袋へと向かった。
東口の地下通路を通り
エスカレーターで地上に
上がったところに公衆電話ボックスが
ある。
そこに堺は何も書いてない
ピンクの付箋を貼った。
サカナから堺へ電話があったのは
その日の深夜だった。
『付箋が貼っていた。』
『そうだ。ある手紙の差出人を
突き止めて欲しい。』
『始末もするのか?』
『いや、とりあえず
突き止めるだけだ。』
『ソレは俺の仕事ではない。
それにはそれの担当が
いるだろうが。
餅は餅屋って言葉を
知らないのか?』
『今日はよくしゃべるじゃないか
サカナよ。先月、得体の
知れないやつに襲われたんだろ?
それで慎重になってるのかい?
正直に言えよ、油断してたって。』
『確かにあの時は油断していた。
だが、あの件は全て片付いている。』
その後の報告で、サカナは
自分を襲った実行犯と、ソレを
指示した組織のトップ3のメンバーを
全員、始末した、ということを
堺は知っていた。
結果的にその組織は壊滅し
清宮の抵抗勢力が一つ減った。
『亀を使っていいか?』
サカナが誰かと組んで
仕事をすることは珍しい。
『亀?亀と組むのか?
やっぱりお前はサカナだな。
海の生物としか組まないんだな?』
『あいつは人探しの天才だ。』
『任せるよ。しくじるなよ。
で、いつまでにいい知らせを
受けられる?』
『いい知らせかどうかは
分からねえが、10日後には
報告するって。』
『分かった。じゃあ10日後に。』
電話は切れた。
堺は大きく息を吐いた。
サカナとは15年の付き合いに
なるが、怒らせるととても
厄介だと言うことは知っていた。
だから、軽口を叩いてはみせたものの
内心はひやひやしていた。
とにかく10日後までは
気が抜けない。
堺はもう一度大きく息を吐いた。
ツヅク
合掌