高校生くらいの子供達が
なにやら群がっていた。
その中心に、うずくまった
半裸の人がいた。
よく見ると高校生達は
その半裸の人を蹴飛ばしている。
こうゆうのを見過ごせない八島は
気がつくと地面を蹴って
高校生の集団に向かっていた。
八島に対して背を向けている
1人の肩を掴むと、ぐいっと
引き寄せ大きな声で怒鳴った。
何をやってるんだ!
高校生達はその大きな声と
八島が大人であることに
恐れをなし、逃げていった。
大丈夫ですか?と
地面にうずくまる人物に
声を掛けた八島は
自分のジャケットをその人に
掛けてあげた。
周囲を見回すと、その人物が
着ていたと思われる衣服が
散らばっていた。
八島は立ち上がって
衣服を拾う。
衣服からは異臭がした。
その異臭は、もう何年も
風呂に入ってない人の
それと思われる臭いだった。
ホームレスか?
八島は衣服を指でつまみ
うずくまる人物の元へ戻った。
顔は垢で真っ黒だがかろうじて
男性だと言うことは分かった。
裸にされた上半身は
あちこちに擦過傷が
みられたが、それよりも
驚いたのはでっぷりと
太っていたことだった。
こんなに太ってるって
いうことは、ホームレスじゃ
ないのか?
男性が起き上がって
八島にお礼を言った。
八島は男性に尋ねた。
『一体、何があったんですか?』
男性はまだ恐怖におびえているのか
小刻みに身体を震わせながら
周囲を見回した。
『あの、高校生達は?』
『ご安心下さい。
蜘蛛の子を散らすように
逃げていきましたよ。』
『蜘蛛の子?』
『ええ。蜘蛛の子です。
散らすように・・・』
『蜘蛛の子を散らしたことが
あるんですか?』
男性が奇妙な質問を
投げかけてきた。
『いえ、それは・・』
『そもそも蜘蛛の子を
見たことがありますか?』
八島は困惑した。
やっかいなヤツにかかわって
しまったんじゃないか?
早く、ジャケットを取り返し
この場を去ろう。
八島は自分のジャケットに
手を伸ばした。
男性はビクっと身体を
硬直させ座ったまま後じさり
した。
『何をするんですか!』
『いや、ボクのジャケットを
返してもらおうと思って。』
『コレはあなたのジャケット
ですか?』
『そうです。あなたが
裸だったので着せました。
こちらがあなたの衣服です。』
そう言って八島は先ほど
拾い集めた衣服を男性に
差し出した。
男性は八島のジャケットを
脱ぐと自分の衣服に袖を
通しすっくと立ち上がった。
立ち上がると男性は
八島に深々とお辞儀をし
『大変助かりました。
ありがとうございます。
このお礼をしたいので
あなたのお名前と
連絡先を教えて
いただけますか?』
八島は逡巡した。
変な人だなぁ。こんな人に
連絡先を教えたらまずいことに
ならないかな?
だが、八島は自分の名刺を
差し出した。
男性は名刺を受け取ると
『亀です。』
と言った。
『へ?』
『亀です。また会いましょう。』
そう言ってぽかんと口を開けた八島を
そこに残し男性は去って行った。
つづく。
合掌