小型のドイツ車に乗った女性が駐車場に入ってきた。 空いているスペースを一生懸命探しているが、あいにく空きが無い。 私の前を何度も何度も行ったり来たりしている。 運転席に座る女性の友人と思しき女性が助手席に乗っている。 その女性もキョロキョロと周囲を見回しては、あちらこちらを指差して運転席の女性に何かしらの指示を出しているようだ。
女性は二人とも白髪を紫に染めていた。
何故?
何故、年老いた女性で少し金持ちの雰囲気をかもし出している人は白髪を紫に染めるのだろう?
ふと、実家の近くにいたあの上品なおば様を思い出した。 彼女も髪の毛を紫に染めていた。 道端で私に会うといつもにこりと笑って 『ごきげんよう』と言い、ハンドバッグから寒露飴を取り出しては、私にそれをくれていた。
何故?
何故、年老いた女性で少し金持ちの雰囲気をかもし出している人は飴を持ち歩いているのだろう?
思えばあの寒露飴を一度も口にしたことが無いなぁ、とぼんやり思い出に浸っていたその時、私の駐車スペースの斜め向かい側の車が出庫した。 ああ、おばちゃん、こっちだよ! と声を掛けたかったがそんな時に限っておばちゃん達は近くにいない。 ほら!グズグズしてると別の人に取られちゃうよ! と思ったが遅かった。 若い男女が乗る赤いコンパクトカーがやってきてスルリと駐車した。 しばらくしておばちゃん達がやってきた。 ここまで来ると駐車場をパトロールしているみたいだ。
ところで寒露飴ってどんな味なんだろう?ああ、あのおば様のくれた寒露飴を食べておけば良かったな。 そういえば、あのおば様はいつも小型犬を抱いていた。 ああ、何て名前の犬だっけなぁ?パ?ピ? え~っと。 あ! ポロちゃんだ。
お、私の隣が出庫しそうだ。 大きな買い物袋を抱えた夫婦が戻ってきた。 助手席に座ろうとする奥さんと目が合った。彼女は軽く会釈した。 そして隣の車のエンジンがぶるんとかかった。 まるで冬眠していた動物が目覚めたみたいだ。 ゆっくりと右に旋回して出て行った。 ほら!おばちゃん達! ここだよ!
ちょうどその時、左の角からおばちゃん達の黒いドイツ車が近づいてきた。 偶然だろうか? この車の名前も確かポロだな。 紫の髪のおばちゃんはポロちゃんが好きなのか?
ま、いいや、ほらおばちゃん!ここ!ここ!
ようやくおばちゃん達は空きスペースに気がついた。 ああ、嬉しそうな顔をしてるわ。 まるで砂漠でオアシスを見つけた放浪者のようだな。年甲斐も無くきゃっきゃきゃっきゃ言ってるよ。聞こえないけど。
お。行けるか、その角度で? もう少し、ほら。 左にぎゅいんってやってから。 あああ。 ほらぁ。 はいやり直しだよ。 あ、また車が来た。 ハザード出して、ほら! そうそう、ゆっくりでいいから。 ああ、助手席からおばちゃんが顔出してるよ。 それって却って邪魔なんだよ、おばちゃん。 サイドミラーが見えないからね。 あ!出し過ぎだって、頭! オーライオーライじゃないよ。ぶつかるよ!ほら!ほら!
ゴツン
私の車のサイドミラーが曲がっちゃいけない方向に曲がった。 車は無事に駐車できたが助手席のおばちゃんは窓から上半身を出したままうなだれている。 頭を出しすぎて私の車のサイドミラーにぶつけたのだ。 私の位置からは、うなだれたおばちゃんの頭頂部が見える。
おばちゃんの頭頂部ごしに車内の様子が見えた。
運転席と助手席の間に寒露飴の袋が置いてあった。
ゴキゲンワーゲン
合掌
かの悟りし人が一人の少女に差し出されし時、、
「甘露」 とつぶやいたとか。。
ワシに言わせれば、、 「甘ぇ~~ヨ」
鷲猫さん、コメントありがとうございます。
甘露飴が正式名称ですがこの話自体を
10月8日に書いたので24節の『寒露』と
かけてみました。
だからどちらかというと
『寒ぃ~~ヨ』です(笑)