497発目 小さな声が世界を救う話。


ライナーノーツ

 

昼食が摂れるならどんな所でも

いいって訳じゃないよね?

1人のときなんかはさ、

なるべく静かな所がいいよね?

 

でもさ、

ある程度のザワつきは

覚悟してるんだよ。

そんな図書館みたいな

静寂は望んでないよ。

 

でも昨日のあの

中華料理屋はひどかったね。

 

札幌駅の地下にある

レストラン街の一つでさ、

見るからにおいしそうな

中華料理屋だったんだ。

 

威勢のいい女性店員が

大きな声で迎えてくれてさ、

ああ、こりゃ静寂は

訪れないな、って

覚悟したんだよ。

 

で、わりと混みあってるのに

4人がけのテーブルに

通されてさ。

オレ、ひとりなのに?

 

あ、カウンターでも

いいっすよ、って

言ったんだけど

どうぞどうぞ、みたいな?

 

ダチョウ倶楽部みたいな

感じで4人がけを薦めるんだよ。

 

オレがやるよ!

いや、オレがやる!

じゃ、オレがやる!

どうぞどうぞ、みたいな?

 

で、まっいいかって

座ったんだよね。

 

座ってから改めて

観察してるとさ、

やっぱカウンターの方が

静かなんだよ。

 

だって全員が1人で

来てるからさ。

1人で来てるのに

ペラペラおしゃべりしたり

しないだろ?

 

全員が黙々と何かしらの

中華料理を食べてるんだ。

 

あ~、あっちの方が

良かったかなぁ?

でもこっちの方が広いし

ゆったりか?

なんて、もう既に座ってるのに

グダグダ悩んでたんだよ。

 

そしたらさ、入ってきたよ、

団体が。サラリーマンの。

ドヤドヤドヤっつって。

 

もうね、ホラ

会議が終わった後の

会議室の廊下みたいに?

小さなドアから

一斉にオサーンが湧き出て来んの。

ワラワラ~っつって。

 

すごいね。

サラリーマンのオサーンが

5人?いや4人以上集まると

もうそれだけで異臭がすごいのに

10人以上集まったんだからさ。

 

もうオゾン層も破壊しそうな

勢いだよ。

普通の人の3倍くらいの

二酸化炭素 吐いてるよ。

 

『いやあ、部長、地球温暖化が

止まりませんなぁ、ガッハッハッハ』

つって。

 

で、その中の1人が

やたら張り切って場を

仕切っちゃってんの。

太っててデブのやつ。

 

あ、一緒か。

太っててハゲのやつ。

 

『あ、上着こっちに置きますよ。』

とか

『皆さん、注文決まりました?』

とかさ。

全員 座ってんのに

そいつだけ立ってんの。

太ってるから?

 

んで、やっと仕切りが終わって

一息ついたんだな。

そいつさ、

もう汗びっしょりなの、

太ってるから。

 

んでさ、上着脱いだんだよ。

太ってるから。

 

オレの位置からは

ヤツの右半身が見えてる。

 

ぱって腰のトコみたらさ、

ベルトがさ、

ベルトループをさ、

通ってないの。

 

なのにズボンが下がらないの。

太ってるから。

 

左側は見えないけど

多分、後ろのセンターあたりから

一気に前まで持ってきた感じ?

右半分のループ全部スッ飛ばして

前に持ってきてんの。

それじゃ帯やん!

 

 

ループ通さんかったら

帯やん!

 

ベルトやないやん!

 

で、そいつがさ、

もうそいつを帯って呼ぶわ。

 

帯がさ、また気ぃ使って

しゃべり始めたわけだ。

愚にもつかない話をさ。

 

『いやあ、部長、昨日の

12番ホールのロングパットは

すごかったらしいですねぇ。』

ってさ。

 

もう社交辞令丸出しの

社交辞令の見本みたいな

そんな会話。

 

『是非、今度ご一緒

させてくださいよ。』

ってさ。

 

どうでもいいわ!

って言いたくなるよね。

 

もう、とにかくうるさいの。

こいつら。

 

わちゃわちゃわちゃわちゃ

女子高生みたいに

ず~~~っとしゃべってる。

 

で、ぱっと隣をみたら

人がいたの。

 

オレの隣のテーブル。

全っ然、気がつかなかった。

 

気配どころか存在を

消してた。

 

忍者か!つって。

老夫婦なんだけど

 

なんかしゃべってるような

雰囲気はあるんだけど

聞き取れないの。

声がちっちゃいし

帯とかがうるせぇから。

 

で、おばちゃんの方が

小さく手をあげるんだよね。

無言で。

 

この問題分かる人?

って言われて

わかんないけど

上げないと、あとで

ママに叱られるって

しょうがなく手を上げた

参観日の小学生みたいに。

そっと。

 

で、当然さ、店員はさ

全然気がつかないわけ。

 

だって存在も気配も

消してるんだもの。

忍者か!つって

あ、これ二回目か。

 

可哀想だから

オレが代わりに店員を

呼んであげたんだよ。

 

そしたらさ、

すっげえ小さな声で

『ありがとうございました。』

って言うの。

 

小っせ!

声、小っせ!

 

 

え?何?ソレが限界?

ミュートしたん?

 

ま、でも嫌いじゃないよ。

声はデカイより小さいほうが

いいよ。

 

あいつらよりましよ。

 

そうそう。

オレ声の小さい女の子

大好きだモン。

近づけるから。

近づかないけどね

あんたら、老夫婦だから。

 

でさ、オレが注文した

回鍋肉定食が来たんだよ。

威勢のいい女性店員がさ

両手に皿を持って

颯爽と現れたよ。

 

で、老夫婦とオレの座る

テーブルの間で

 

がちゃん!

 

って落としたの。

 

そしたらさ、

ソレまでわちゃわちゃ

うるさかった帯たちがさ

ピタっと黙ったの。

 

代わりに隣のじいちゃんが

 

『お怪我はありませんか!』

 

つって、店員さんを気遣ったの。

でかい声で。

 

出るや~ん。

でかい声、出る」や~ん。

 

んでさ、じいちゃんたら

店中の人から見られてるのに

気付いたみたいで、顔を真っ赤に

染めて静かに座ったよ。

 

で、もっのすごい

小っさい声でばあちゃんに

 

『大っきい声だしちゃった。』

 

って報告してた。

 

なんかさ。

もうね

全部許す。

って気持ちになれたね。

 

イイハナシ

合掌

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