475発目 過大評価の話。


ライナーノーツ

全国にチェーン展開している居酒屋の奥の座敷が我々の指定席みたいになっていた。 店長はすっかり顔見知りになってたし名刺交換もしていた。 店員の数名とも仲良くなっていて、『いつもの!』って頼むと生ビールと軟骨のカリカリ揚げが出てきた。

 

彼を最初にこの居酒屋に連れてきたときには驚きと感動で大げさなくらい喜んでいた。

 

『いやあ、すごいっすねヤマシタさん。 俺、いつものって頼む人を初めて見ました。』

 

私としてはそんな褒められるような出来事でもないし、かえって恥ずかしい気持ちになる。そんな彼とはその後、めったにこの居酒屋で一緒に飲むことはなかった。 何故か? それは疲れるからだ。 彼と飲むと疲れるのだ。彼の名はタリラリ(仮名)。(仮名)と書かなくても本名じゃないことくらい分かるだろ?

 

どうして疲れるかというと、彼はとにかく 『欲しがる』 のだ。

 

 

意味が分からないだろうから具体例を出して説明しよう。

 

そういえば、お前入社して何年になる?みたいな話になって、若手の社員が『もう8年目っす。』って答える。 そんで、『8年間で辞めようと思ったことある?』みたいな会話に、急に横からタリラリが入り込んできて、こう言う。

『確かお前、オレの直属の部下のときに辞めるっつってたよな?何年前だっけ、あれ?2年くらい前か?』

 

『ああ、そうっすね。 ソレくらい前です。』

 

『だよな?ヤマシタさん聞いてくださいよ。こいつ神妙な顔で辞めるつってきたんで、オレ敢えて冷たく突き放して考えを改めさせようとしたんっすよ。 な? あんとき俺が突き放したから辞めずに済んで、で、今に至るっつうヤツだよな!』

 

8年目の社員は複雑な表情になっている。

 

だがこのエピソードの真相は違っていた。

 

『いやあ、あのときヤマシタさんに言われた一言でオレ会社を辞めるのを踏みとどまったんですよね~。』

 

『え~?オレ、何か言ったっけ? ってゆうか、お前なんか辞めればよかったのに』

 

私は照れ隠しで敢えてヒドイ言い方をする。

 

『何言ってんスか~! あん時言ってくれたじゃないっすか! お前を必要としている人は少なからずおるぞ、オレもその1人ぞって』

 

『え~!オレ、そんなこと言った~?』

 

『そうっすよ!でも、あんときのオレの直属の上司ってタリラリさんだったんすよ。 で、オレやめますって言ったときにタリラリさんは、あっそ。 ってめちゃそっけなかったんすよ~。 なのになんで、オレのおかげで、みたいなこと言うんすかね?あの人。』

 

また、別の日にはこんなことがあった。

いつもの居酒屋とは別の居酒屋で飲んでいた。 そのとき私を含め3人だった。タリラリから電話があり合流したいという。 断る理由も無いので快諾した。 しばらくするとタリラリはやってきて、結局その日のお会計を全部出してくれた。 もともと私が焼酎をボトルキープしていたので総額で8,000円くらいだった。

その事をタリラリはずっと言い続ける。 『あのとき奢ったよね!』 と。

 

『あ、いいの、いいの。 でもさ、奢らない上司っておるやん? オレはあんなふうにはなりたくないね。 ね?ヤマシタさん。』

 

『ああ、そうだね。 じゃ、今日もタリラリの奢りか?』

 

『いいっすよ。今日も俺が出しましょう!』

 

さっすが~!とみんなは口に出して言うが心の中ではさすがとは思ってない。 恐らく今日、奢ったというエピソードは半年は言い続けるからだ。

 

この様にタリラリは手柄を欲しがるのだ。

 

そしてこの様などうでも良い自慢話をあちこちで吹聴するもんだから、誰に何を話したか分からなくなって最終的にこんな墓穴を掘った。

 

『あ、ヤマシタさん。 今日、仕事終わったら一杯どうすか?』

 

『ああ、いいよ。 どこ行く?』

 

『じゃあ、あそこに。6時。』

 

と、彼は私がいつも言っている居酒屋チェーンの名前を出した。

 

 

私は6時丁度に店に着いた。 タリラリも来ている。 奥の座敷にいつものように通される。 いつもの女の子の店員がニコニコと近づいてくる。

 

タリラリは自信満々の顔でこう言った。

 

『あ、いつもの。』

 

彼女はもちろん、私がいつも頼んでいる生ビールと軟骨のカリカリ揚げだと思ってる。

 

タリラリは私に、

 

『すごいっしょ? ここはいつものって言えば生ビールと軟骨のカリカリ揚げが出てくるんっすよ。 常連感がハンパないっしょ?』

 

それに感動してたのは君のほうだけどね。

 

もう、あれかな? オレに連れてきてもらったっていう記憶はどっかにいっちゃったのかな?

 

私はこの出来事を絶対、ブログに書いてやろうと決めた。

 

『ヤマシタさんはブログとかやらないんすか?』

 

『ああ、オレはあ~ゆ~の向いてないから。』

 

そう言って私は彼にブログのURLを知られることを回避した。 絶対教えるもんか! お前の悪口を書くんだからな!

 

『いやあ、オレブログやってんすよ。 いまねぇ札幌で1位なんすよ!』

 

ウソつけ! 札幌で1位は円山の兼業主婦じゃ!

 

ア~ツカレル

 

合掌

 

 

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