470発目 娘が正しい話。


ライナーノーツ

駅前の横断歩道で信号待ちをしていた。

 

私の目の前には若いお母さんが

小さな娘の手を引いている。

娘は幼稚園の制服と思しき

服装だから4歳くらいだろうと

見当をつける。ウチのとおなじくらいか、と。

 

どうやら泣いているようだ。

 

お母さんは知らん振りをして

ただ、黙って手を握っている。

 

ママ、ねえママ

 

ともう一方の手でお母さんのスカートを

引っ張る。

お母さんはイライラしながら

ダメって言ってるでしょ!と

一蹴する。

 

『どうして?どうしてアイス買ってくれないの?』

 

娘は飛び切りの大声でお母さんに訴える。

 

『あのね、ご飯の前にアイス食べると

ご飯が入らなくなるでしょ?

それに甘いものばかり食べたら

太っちゃうよ。』

 

若いお母さんはしゃがんで目線を

娘に合わせて優しく言った。

イライラをぐっと我慢した様子が

伺える。

 

娘はひっくひっくと涙を

こらえながらこう返した。

 

『ママはアイス食べないけど

太ってるじゃ~ん!』

 

娘よ。

君が正しい。

君のお母さんは他人の私から見ても

充分に太っている。

 

『ママは太ってないわよ!!!!』

 

お母さんは怒りを抑えきれずに

反論した。

 

私は余計なおせっかいを

焼きたくなった。

 

お母さん、あなた太ってますよ、と。

 

だが、ソレを言わないだけの礼儀はある。

 

信号が青に変わり一斉に

人々が横断歩道を渡り出した。

 

ほとんどの人が地下鉄の駅へ

吸い込まれていく。

 

私の前方には尚も先ほどの

親子が歩いている。

 

娘はあきらめたのか黙って

階段を降りている。

 

改札のところで親子の

行く手を阻むように

ゲートが閉じた。

 

ピコーンピコーンとうるさい。

 

駅員が近づいてくるよりも早く

娘がお母さんにこう言った。

 

『ほらあ、太ってるからだよ~!』

 

私はあの娘が虐待されないことを

祈ることしか出来なかった。

 

娘よ。

君は正しくない。

 

そのゲートが閉まったのは

君の母親が太ってるせいでは

無いぞ。

 

 

 

数ヵ月後、最寄の駅でウチの娘と二人で

並んで改札を抜けようとしたら

ゲートが閉じた。

駅員に聞いてみると

意外な答えが返ってきた。

 

『幅がありすぎてもダメなんです。

今度から縦に並んでお入りください。』

 

ってことはやはりあの時の

お母さんは太ってるから

ゲートが閉じたのか!!!!

 

娘よ。

君はやはり正しい。

 

ヤセタイ

 

合掌

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