駅前の横断歩道で信号待ちをしていた。
私の目の前には若いお母さんが
小さな娘の手を引いている。
娘は幼稚園の制服と思しき
服装だから4歳くらいだろうと
見当をつける。ウチのとおなじくらいか、と。
どうやら泣いているようだ。
お母さんは知らん振りをして
ただ、黙って手を握っている。
ママ、ねえママ
ともう一方の手でお母さんのスカートを
引っ張る。
お母さんはイライラしながら
ダメって言ってるでしょ!と
一蹴する。
『どうして?どうしてアイス買ってくれないの?』
娘は飛び切りの大声でお母さんに訴える。
『あのね、ご飯の前にアイス食べると
ご飯が入らなくなるでしょ?
それに甘いものばかり食べたら
太っちゃうよ。』
若いお母さんはしゃがんで目線を
娘に合わせて優しく言った。
イライラをぐっと我慢した様子が
伺える。
娘はひっくひっくと涙を
こらえながらこう返した。
『ママはアイス食べないけど
太ってるじゃ~ん!』
娘よ。
君が正しい。
君のお母さんは他人の私から見ても
充分に太っている。
『ママは太ってないわよ!!!!』
お母さんは怒りを抑えきれずに
反論した。
私は余計なおせっかいを
焼きたくなった。
お母さん、あなた太ってますよ、と。
だが、ソレを言わないだけの礼儀はある。
信号が青に変わり一斉に
人々が横断歩道を渡り出した。
ほとんどの人が地下鉄の駅へ
吸い込まれていく。
私の前方には尚も先ほどの
親子が歩いている。
娘はあきらめたのか黙って
階段を降りている。
改札のところで親子の
行く手を阻むように
ゲートが閉じた。
ピコーンピコーンとうるさい。
駅員が近づいてくるよりも早く
娘がお母さんにこう言った。
『ほらあ、太ってるからだよ~!』
私はあの娘が虐待されないことを
祈ることしか出来なかった。
娘よ。
君は正しくない。
そのゲートが閉まったのは
君の母親が太ってるせいでは
無いぞ。
数ヵ月後、最寄の駅でウチの娘と二人で
並んで改札を抜けようとしたら
ゲートが閉じた。
駅員に聞いてみると
意外な答えが返ってきた。
『幅がありすぎてもダメなんです。
今度から縦に並んでお入りください。』
ってことはやはりあの時の
お母さんは太ってるから
ゲートが閉じたのか!!!!
娘よ。
君はやはり正しい。
ヤセタイ
合掌