446発目 再犯の話。


ライナーノーツ




性犯罪の再犯率が40%という報道を目にするが、実際は違う。 初犯が窃盗で次に性犯罪で収監された人も性犯罪の再犯としてカウントされるからだ。 現在、わが国において最も再犯率が高いのは『窃盗』だ。

おばあちゃんがよく言っていた。盗み癖は一生治らないと。

万引きなどがそうだ。 特別欲しいが金がない、のではなくて盗む癖がついているから万引きする、という人が後を絶たない。 このように犯罪に関する統計や研究は昔から行われているが、窃盗の再犯率が高いということは我々は中学3年生のときに既に実地体験に基づいて確信していた。

我々? 私の通っていた中学の同級生達のことだ。 何故、我々が知っていたかというと、それには彼のことを説明せずには語れない。

 

マッスンと呼ばれる男は、十分なお小遣いをもらっているにもかかわらず、目の前にあるものを片っ端から盗むという癖があった。 教育熱心な両親の期待を小6の時点で裏切っており、それでも万引きをやめないマッスンに対し両親はお小遣いの額を上げたが解決にはつながらなかった。 そりゃそうだ。 金が無いから、欲しいから、という理由で彼は盗みを働いているわけではない。 単純に盗みの技術を上げる喜びを知ったからに他ならない。

 

大型のショッピングセンターに行くとまず、盗んだものを入れておくための紙袋を盗む。 そして盗みを終え帰る際には、その大量の盗品を持って歩くことを嫌い、自転車を盗む。 彼が盗みを働くときには洋服以外の持ち物は全て盗品という徹底振りだった。

 

彼の更正を心から願う両親は彼にカウンセリングを受けさせた。 中学3年生のときだ。 この時、既に区内のショッピングセンターは彼のことをマークしており、彼が入店すると店内の音楽が変わるほどだった。 音楽が変わると私服の警備員が一斉に『ヤツが来た』と気付くための合図だったらしい。

 

週に一度のカウンセリングの甲斐があってマッスンは次第に落ち着きを取り戻し、過去の犯罪を反省しだした。 両親も彼の更正を実感したことだろう。

 

学校に来てもマッスンが会話をするのは男子生徒だけだった。 なぜなら彼はお姉ちゃんの下着を学校に持ってきて女子からは『変態』のレッテルを貼られていたからだ。(詳細は408発目 厨2の話。 をご参照のこと。) それでも彼はそれを苦痛に感じず、毎日元気に登校していた。

 

キイチのお姉ちゃんが美人高校生だという情報を我々にもたらしたのはアキラだった。 マッスンはキイチの家に遊びに行きたがった。 アキラが段取りをしキイチが部活の休みのときに仲良し何人かでキイチの家に集まろうということになった。

 

当日はキイチのお姉ちゃんと両親は留守だった。 これがいけなかった。

 

マッスンは落ち着きを取り戻していたかに見えたが実はその逆で、次に来る盗みのチャンスを今か今かと待ちわびていたのだ。

 

キイチがトイレに行っている隙にお姉ちゃんの部屋に入り、タンスを物色し、下着を数枚盗んだ。 その時、一緒にいた友人の誰も気付かないほどの早業で、キイチがトイレから戻ってくるまでの僅かな間に彼の『仕事』は完了していた。

 

その日はカウンセリングの日だったのでマッスンはキイチの家を後にしカウンセラーのもとに向かった。 ポケットにはキイチの姉ちゃんのパンティを入れたままだ。

 

カウンセラーとの面談は1時間にも及んだらしい。 マッスンの表情がいつもと違うことに気がついたカウンセラーは何か良いことがあったのかとマッスンに尋ねた。 マッスンは『秘密だよ』と笑ったらしい。 それにピンときたカウンセラーがマッスンの激しい抵抗をものともせず彼の身体検査を断行し、ポケットから女性物の下着を発見した。

『どういうことだね?』

詰め寄るカウンセラーにマッスンは覚えたてのセリフを口にした。

『魔が差したんです。』

 

両親を呼ばれキイチの家に謝罪に行き、盗んだ下着を返そうとしたが、キイチの両親はもとより姉ちゃんは、そんなの気持ち悪いから捨ててくれ!返していらん!と一蹴したそうだ。このように、中学3年の時点で我々は『窃盗の再犯率、と性犯罪の密接な関係』をまざまざと見せ付けられていたのだ。

 

20年ぶりにマッスンに会った。 生まれ故郷ではなく大阪の街で偶然出会った。

 

『いやあ、今は普通に結婚して子供もおるよ。』

 

というマッスンの一言に、ああ、更正したんだな、という気持ちと、本当に更正したのか?という疑惑が半々だった私は彼の仕事の内容を尋ねた。

 

『クリーニングの集配をしてる。 取次店から工場へ洗濯物を運ぶ仕事だよ。』

 

私は驚いた。 最も選んではいけない職業を選んでいるのだ。

 

『大丈夫かお前? お客さんのパンティを盗んだりしてないか?』

 

私はそう尋ねずにはいられなかった。

 

『古い話をするねぇ。ヤマシタは。見ず知らずの人のパンティを盗むような変態じゃないよ、俺は。はっはっは。それにパンティをクリーニングに出す人はめったにおらんよ。』

 

それもそうか。いや、お前は十分すぎるほどの変態で盗人だ。

 

『たまに嫁さんのパンティを盗むくらいよ!』

やっぱりかい!

盗み癖が治らないというおばあちゃんの説は、これで証明された。

 

尚、文中に出てくる登場人物の名前は全て架空の人物です。

 

 

ネンノタメ

 

合掌

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