ウメさんと呼ばれている先生が
中学2年の時の担任だった。
体育教官で生徒からは
恐れられていたが、
実に気さくで男らしい
先生だった。
2時限目と3時限目の間に
ちょっと長めの休み時間が
あるのだが、ボクらはいつも
トイレでタバコを吸っていた。
そのトイレに慌てて駆け込んで
来たのはナオジだった。
『次の体育は持ち物検査って!』
まじか~!
大慌ての厨2ども。
必死でタバコを隠す場所を
探し出す。
まるで蜂の巣をつついたみたいに
トイレの中は喧騒に包まれた。
次に教室に戻り
鞄の中と机の中の
ヤバそうな物をチェック!
ヤバそうな物は全て
掃除用具入れに隠す。
全ての隠蔽工作が
完了したと同時に
3時限目開始のチャイムが
鳴り響いた。
ボク等はみな、一様に
安堵の息を漏らし
椅子に深く座りなおした。
先生がのっしのっしと
教室に入ってくる。
『よ~っし。授業の前に
持ち物検査をする!』
『え~~~!!』
ボク等は知っていたにも
かかわらず、芝居がかった
声を上げた。
予定調和というやつだ。
『やかましい!
近所の人から通報が
あったんじゃ。3階の窓から
煙が出てますよって。
お前等、タバコやら
吸っとらんやろうのう?』
ふっふっふと不敵な笑みを
浮かべたウメさんは全員に
鞄を机の上に出すよう
指示をした。
その時、教室の前の扉が
ガラっと開き、事情を知らない
マッスンが入ってきた。
『何や!お前、今頃来て。
遅刻か!』
『いや、先生、違うんよ。
来る途中でドブに落ちたけ
一回、着替えに帰ったんよ。
そしたら遅くなったんよ。』
『ウソつけ!コラ。
言い訳は後で聞いちゃる。
とりあえず持ち物検査や。
その鞄をこっちによこせ。』
マッスンの顔が見る見る青ざめた。
アイツのことだ。きっと
タバコを持ってるはず。
分かる。分かるぞ~。
マッスン。君の気持ちは。
でも、君はもう終わったよ。
クラスの男子のほとんどが
マッスンを憐憫たっぷりの目で
見つめた。
『あ、いや、ウメさん。
ちょっと鞄は待って。
鞄は!』
『やかましい!
まずはポケットからじゃ!』
マッスンは両手をバンザイして
なすがままになる。
ウメさんも慣れたもので
ちゃあんと足首まで
チェックしている。
まるでプロレスのレフリーだ。
『お!なんも持っとらんの。
さ、次は鞄や!』
マッスンはあきらめたのか
その場にひざまずいた。
半泣きになりながら
『ウメさ~ん、ホント、マジで
勘弁してくれんかねぇ~?』
と訴える。
ウメさんはやかましいと
一蹴して鞄を教壇の上に
ひっくり返した。
ひらひらひら。
マッスンの鞄からは
青やピンクの女性物の
下着が出てきた。
女子達の悲鳴が教室に
響き渡る。
ウメさんは驚きを隠せない。
解説しよう。
話は前日にさかのぼる。
マッスンがある雑誌を
持ってきた。
その雑誌はガンダムの
プラモデルの特集だった。
マッスンはそのガンプラが
欲しくてしょうがなかったが
お金がなかった。
そこで、マッスンは
1コ上のサンダーという男に
お願いをしにいった。
サンダーは医者の息子で
噂によるとお小遣いを
月に2万くらいもらってる
らしかった。
厨2のボク等にとって
2万円というのはとてつもない
金額でそれこそ、国家予算くらいの
重みがあった。
サンダーは交換条件を
出してきた。
それが女物のパンティと
引き換えという条件だった。
3枚500円で買い取る、と。
マッスンには2コ上の
姉ちゃんがいた。
多分、昨日の夜、
姉ちゃんが風呂に入っている間に
箪笥の中から盗んできた
のだろう。
『なんやこれは~!』
怒り狂うウメさん。
変態、スケベ、下着ドロ。
様々な罵声を浴びせる
女子達。
そのままマッスンは
生徒指導室につれて
行かれてしまった。
ウメさんはボク等に
自習!と一言告げて
教室を後にした。
それからマッスンは
18歳になるまで
お姉ちゃんと口をきいてない。
下着ドロのレッテルを貼られた
マッスンは、その日を境に
ぐれた。
涼しい風が吹く、冬の
終わりの出来事だ。
ああ、厨2って
カナシイネ
合掌
ピンバック: 446発目 再犯の話。 | ライナーノーツ