398発目 比喩がややこしい話。


国士無双

麻雀が大好きな先輩がいた。

名前をヒデキくんという。

 

ヒデキくんはある女性のことを

国士無双と呼んでいた。

何故、そう呼ばれているかが

ずっと疑問だった。

 

彼はあまりにも麻雀が好きすぎて

しゃべる言葉のほとんどを

麻雀用語で言っていた。

 

当時はバブル景気真っ最中で

彼は麻雀でも羽振りが良かった。

 

ヒデキくんの麻雀仲間にタクヤという

人がいた。

タクヤくんはいわば使い走りの

ような存在で、ヒデキくんの言うことは

何でも聞き入れる人だった。

 

『だけど指示しないと

動かないんだよね』

 

とヒデキくんは愚痴っていた。

 

そんなタクヤ君のことを

 

『全自動のタク』

 

と呼んでいた。

 

【全自動卓】
麻雀の牌を自動で混ぜて積み上げるテーブルのこと
全自動卓

 

当時20歳だったヒデキくんは

賭け麻雀で巻き上げた資金を

元に株で一儲けするんだと

豪語していた。

 

小倉駅前の証券会社を

片っ端から廻り株への知識を

高めていった。

 

ほぼ毎週のように証券会社へ

通う彼は主に4大証券の店舗を

廻っていた。

 

山一證券、日興証券、野村證券

そして大和証券の4社だ。

 

彼はその4社のことを

 

『証四喜(ショウスウシー)』

 

と呼んでいた。

 

【小四喜(ショースーシー)】
東南西北の4種類の牌を
3牌ずつ集める役。 役満
小四喜

 

小倉の名物スイーツで

回転焼きというものがある。

回転焼き

 

あんこが中に詰まったお菓子だ。

 

これを4つ並べて

 

『四餡刻(スーアンコウ)』

 

と呼んでいた。

 

【四暗刻(スーアンコウ)】
同じ牌3枚の組(刻子)を鳴かずに
4つ作る麻雀最高の役。
スーアンコウ

ファストフードのお店で

チーズバーガーを注文し

店員からセットですか?と

聞かれたときには

 

『いいえ、タンヤオピンフです。』

 

と答える。

 

【断么九平和(タンヤオピンフ)
麻雀の中でも基本中の基本役。
略してタンピンと呼ぶ。
タンピン

 

餃子の王将で値段が安いのに

餃子がデカイということを褒めるのに

 

『八連荘でリーピンを上がる』

 

と表現する。親番の時に

八回連続で上がった場合、

8回目以降は2翻以上で上がれば

その全てが役満になるという

特別ルールなのだが

つまり彼は安い手でも

八連荘しているので

デカイと言いたいらしい。

 

そんなヒデキくんが麻雀用語で

喩えるたびにボクはその意味を

尋ねなければならなかった。

面倒でしょうがなかった。

しかし解説を聞かないと

話が前に進まないのも

事実だった。

 

だからボクは国士無双の

由来を尋ねたんだ。

 

ヒデキくんはその由来を

こう説明してくれた。

 

『俺がつきあってと言えば

あいつは必ず俺とつきあう。』

 

安全牌だと思っていた。

振られることはまずない。

 

だから彼女のことを影で

こう呼んでいた。

 

 

『ラス牌の北』
北

 

これは4枚あるうちの3枚が

場に切れていて最後の1枚を

捨てたときにロンと言われることが

まずないと言われる安全牌だからだ。

 

ある日ヒデキくんは

『ラス牌の北』に告白して

見事に振られた。

 

予想もしてなかった展開に

彼は困惑しながらも

もう彼女を『ラス牌の北』と

呼べないと認識した。

 

ラス牌の北で振り込む役は

麻雀ではたった一つしかない

 

それが

 

『国士無双』

 

だったんだ。

 

彼女が国士無双と

呼ばれるようになった

ゆえんだ。

 

ヒデキ君は結局その後

5年以上にわたり彼女を

愛し続け、告白し続けた。

 

トータルで13回告白したそうだ。

そして13回目で彼女のハートを

射止めた。

そして彼女と結婚した。

 

彼はそのことを

 

『オーラスで大逆転。

国士13面待ち!』

 

と言っていた。

 

今ではヒデキくんは

二人の子供に恵まれて

幸せな家庭を築いている。

 

子供達の名前は奥さんの

必死の抵抗で普通の名前が

つけられたらしい。

 

でもその子供達はお母さんの

ことを『コクシ』と呼んでいる。

 

アキレタ

 

合掌

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