368発目 資さんの話。


ライナーノーツ

新年あけましておめでとうございます。

旧年中は一方ならぬご愛顧を

賜り誠に有難う御座いました。

 

本年も変わらぬご愛顧を

賜りますようお願い申し上げます。

 

さ、殊勝な態度はこれくらいにして。

 

ことしもポップに世の中を

皮肉って行くぞと、鼻息荒く

新年を迎えるわけだが

年越しそばを食べていて

ふと思い出した話がある。

 

あれは確か、一番下の妹が

生れる時だったから1977年のことだ。

 

俺は母ちゃんが妹を出産するまでの

1か月のあいだ、じいちゃんちに

預けられていた。

 

小倉祇園が終わってすぐだったから

確か夏休みに入ってすぐの

出来事だったと思う。

 

俺はこの出来事を夏休みの

作文として学校に提出したんだ。

 

今でもはっきりと覚えている。

当時の担任の先生が

それぞれの作文を添削し

点数をつけてそれぞれに返す時、

 

『ヤマシタ君。作文はね、

本当にあった出来事を書くの。

作り話だと小説になっちゃうからね。』

 

と注意された。

 

俺は小学生ながらに、

 

『ははぁん、こいつ嘘と思っとるな』

 

とピンと来たことを今でも

まるで昨日の事のように

思い出せる。

 

じいちゃんちに居候しているとき、

ある日曜日に、いとこが来たんだ。

 

いとこは俺とは同い年で、

珍しいことに生年月日が同じなのだ。

 

だから、とても仲が良く、

退屈していたじいちゃんちの

生活に彼が彩を加えてくれたのは

確かだった。

 

仲よく遊ぶ二人をじいちゃんは

微笑ましく見つめていた。

 

夕食の時だ、じいちゃんが

突然、こう言った。

 

『お前たちゃ、若戸大橋は見たこと

あるんか?』

 

俺は若戸大橋なら何度も

通ったことがあるので

あるよ、と答えた。

 

いとこも、もちろんあるよ、と

答えていた。

 

じいちゃんはニヤリと笑い

 

『せやけど、歩いて渡ったことは

なかろうが?』

 

と何かを企む顔をした。

 

詳しく話を聞いてみると

なんのことはない、

若松区と戸畑区を遮る

洞海湾には若戸大橋というのが

架かっているのだが、

その橋を歩いて渡る方法が

あるとのことだ。

 

じいちゃんも暇だったので

ここはいっちょ孫たちでも連れて

遊びに行って来いと、

ばあちゃんからの指示だったらしい。

 

 

翌日俺たちはじいちゃんに連れられて

三萩野の乗り場からバスに乗り

戸畑渡し場に向かう。

 

当時は直行バスがなかったので

一度、中原というバス停で

乗り換える必要があった。

 

じいちゃんはバスに詳しかった。

 

『あんの、北九州市はの、

60過ぎたジジイとババアに

特別なサービスをやりよるんじゃ。

そやけんの、わしらジジイは

バスはタダなんじゃ。乗り放題じゃ。』

 

そう言って三萩野から乗り換えの

バス停まで、我が物顔で優先席に

座り、あぐらをかき、二人分の

座席を占領して、かつ無料で乗る

という傍若無人ぶりを発揮した。

 

こういうのを権力の乱用と

いうんだということに当時の

俺たちは気づかない。

小1だから。

 

やがてバスは戸畑区に入った。

 

車窓から外を眺めるじいちゃんが

突然、こちらを振り返り話し始めた。

 

『おい。お前たちゃ昼飯は

どうすんかい?』

 

『俺たちはばあちゃんが

弁当作ってくれたけ、それを

食べるよ。』

 

『わしの分もあるんかいのう?』

 

『結構、大きい弁当箱やけ

じいちゃんの分もあるんやないん?』

 

『けどあれやのう。この暑いのに

外で食べるんも、しろしいのう。

(しろしい=いやらしい)

よっしゃ。ええこと思いついた。

次で降りるぞ。』

 

そう言ってじいちゃんは

一枝というバス停で俺たちを

降ろした。

 

信号を渡った反対側に

当時、できたてほやほやの

資さん(すけさん)うどんという

うどん屋があった。

 

じいちゃんは何食わぬ顔で

店内に入って行った。

 

店内は4人掛けテーブルが

6つくらいしかなく、狭かったが

まだお昼前ということもあり

比較的すいていた。

 

あいているテーブルにどっかりと

座る。じいちゃんはタバコに

火をつけおいしそうに煙を

吐き出したあと、

 

『なんや、扇風機か。

儲けとんやろうがい。

クーラーでもつけんかいや!』

 

と文句を吐き出した。

 

弁当があるというのに

何故、うどんやに入ったんだろう?

という疑問はこの後、解決される。

 

『おい。弁当広げろ。

めし食うぞ。』

 

は?

 

俺といとこは耳を疑った。

 

幼いながらに俺たちは

良識のある両親に育てられていたので

うどんやで持参した弁当を

食べてはいけないということを

知っていた。

 

『じ、じいちゃん・・・』

 

『ええけ、出せや。

構わせんわい。』

 

しぶしぶリュックから弁当を

出す子供たち。

 

店員が慌てて飛んできて

じいちゃんをとがめる。

 

『お客さん!なんしよんね?

ここは弁当食べるところやないよ。

うどん食べるところよ。』

 

『わかっとるわい。

注文すりゃあええんじゃろ?

決まったら呼ぶけん、それまで

引っ込んどれ。』

 

しっしっと犬を追い払うように

手を振り店員を追い払った。

 

 

『い、いただきます・・・』

 

俺たちは周囲の目を気にしながら

どうにかおにぎりを頬張った。

 

恥ずかしい気持ちと

やってはいけないことを

やっている後ろめたさと

心細さが、頂点だった。

 

切なさと恋しさと心強さと~♪

 

の真逆の心境だ。

 

恥ずかしさと後ろめたさと

心細さと~♪

 

だ。

 

結局、じいちゃんはしれっと

した顔で店員を呼び

『たくあんと水もってこい。』

と言った。

 

たくあんはうどんについてくる

無料の突き出しだ。

 

テーブルに置いている

天かすととろろ昆布を指さし

『これはただよのう?』

と聞く。

 

店員は心底嫌な顔をして

 

『はい。うどんをご注文の

お客様は無料で召し上がれます。』

 

と言い返した。

 

その時点で店員は

『このジジイには何を言っても無駄だ。

早く出て行ってくれることを祈ろう。』

というスタンスになっていたと思う。

俺たちはそのあと、弁当を食べている

事をとがめられることはなかった。

 

どうにか弁当を食べ終わった

じいちゃんと俺たちは

結局、店内が込み合う前に

店を出た。

 

爪楊枝を加えたじいちゃんは

店員に右手を上げると

 

『また来るの~』

 

と言った。

 

店員はきっとこう思ったに違いない。

 

『何にも食っとりゃあせんのに

爪楊枝くわえやがって!

二度と来るな』 と。

 

バス停に向かうじいちゃんの背中が

頼もしくみえた昼下がりだった。

 

その日以来、俺は資さんうどんの

一枝店には行ってない。

 

万が一、そのことを覚えている

店員がいたら恥ずかしいからな。

 

ココ~ロボソサト~♪

 

合掌

 

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