346発目 同窓会の話。


死んでやる

数年ぶりに会う同級生とは

会っていなかった時間が

ウソのように出会って一瞬で

昔のように戻れる。

 

懐かしい話もあれば

お互いの近況報告だけでも

時間はあっという間に過ぎて行き

ああ、また会いたいなと

思う。

 

だから同窓会に誘われると

よっぽどの事情がないか限り

出席するようにしている。

 

でもある時、ニュースで

あんな事件を見てしまったので

ちょっと躊躇するときもある。

 

あんな事件とは

当時のいじめられっこが

同窓会を企画し、集まった同級生に

青酸カリ入りのビールを

飲ませようとした事件だ。

 

 

 

 

高校1年のときにタイスケという

男がいた。

 

とても変わった奴で

男子とは打ち解けようとはせずに

常に女子と接点を持とうと

していた。

 

今なら微笑ましいだけだが

10代の若者にとって

そういった行為は嫌悪以外の

何者でもなかった。

 

そのため、タイスケにつらく当たる

男子の数は相当数いた。

 

タイスケは学生手帳に

クラスの女子の全員の

誕生日をメモしており

それぞれに必ずプレゼントを

していた。

 

中でもタイスケのお気に入りの

女の子は当時学校を

休みがちで、彼女が

学校を休むと授業の板書を

ノートにビッチリと書き込み

頼まれてもいないのに

彼女の自宅に届けていた。

 

彼女と仲良しの女の子は

ボクの幼馴染だったので

当然ボクも彼女と仲良しだった。

 

彼女の家は一度教えられたくらいじゃ

たどり着けないような迷路のような

住宅団地の一角に在り、

タイスケが住所を頼りに

彼女の自宅にたどり着くという

執念に彼女自身も恐怖を覚えた。

 

ボクは一度、タイスケに

どうやって彼女の家に行ったんだ?

と聞いてみた。

一体、誰に住所を教えてもらったのか?

と。

いや、そもそも君はどうやって

クラス全員の女子の誕生日を

知っているんだい?

もしかして女子全員の住所も

把握してるのかい?と。

 

タイスケは狂人がそうするような

目でボクをにらみつけた。

 

『ヤマシタはどうしてボクがノートを

持って行ったことを知っている?』

 

と、逆にボクに尋ねてきた。

 

『いや、彼女から聞いたんだよ。

オレは仲がいいからさ。』

 

どうやらそれが気に入らなかったのか

教室の窓を開け、そこに

足をかけると

 

『死んでやる』

 

と騒ぎ出した。

 

その頃にはタイスケの

”死んでやる” はいわば

ルーティンのようなもので

その時もボクはちっとも

慌てず『あ~はいはい』

ってなもんだった。

 

結局、3年間タイスケは

死んでやると騒ぎ続けたが

死ぬことは無かった。

 

高校を卒業し、12年の月日が

流れた。

 

 

ボクは転職し福岡に戻ってきていた。

 

ある日、事務所を出て

昼食に向かっているときだった。

 

博多駅のロータリーに入りきれない

観光バスで溢れかえった

事務所の裏通りを、見たことのある

男がバスから降りてきた。

 

タイスケだった。

 

ボクは懐かしく感じたので

『お~い、タイスケ!

まだ、死んでなかったか?』

と声をかけた。

 

タイスケはボクを見て

すぐに思い出したのだろう。

聞き取れないくらいの

小さな声で、

『クソッ、ヤマシタか。』

とつぶやいた。

 

そしてボクに近づいてきて

こう言った。

 

『気安く話しかけないでくれ。

ボクはまだ、君たちを

許してないんだから!』

 

そしてスタスタと去っていった。

 

 

さて、どうやらボクの出た高校は

2020年に大同窓会を

企画しているようだ。

 

地元に残った有志で

計画を着々と進めてくれて

いるのだろう。

 

ボクはできる限り出席しようと

思っているが、幹事の中に

タイスケがいるのならば

悪いけど欠席しようと思う。

 

青酸カリは飲みたくないからな。

 

イジメハダメヨ

 

合掌

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