340発目 若い頃の過ちの話。


ライナーノーツ

私にはコージという友人が数人いる。

 

一人はこのライナーノーツでも

紹介した、元ヤクザの故コージだが、

もう一人の親友は今でも私事や

仕事の付き合いがある。

 

ややこしいのでコウジと呼ぶ。

 

コウジは中学の頃からの親友で

私とは対極的に彼はとても

不良だった。

 

街で同級生や後輩を見かけると

近づいていって声をかけ

『ちょっと金貸せ』

と言う。

 

言われたほうは返って来ないのを

わかってて金を差し出す。

 

平たく言うと『恐喝』で

優しく言うと『カツアゲ』だ。

 

大人になってからのコウジは

私が知る限りごく一部の

更正に成功した一人で

福岡のとある会社で営業を

していた。

 

私とは仕事でも付き合いがあり

ちょこちょこ会っていた。

 

ある案件を私が紹介することに

なったのでコウジを呼び出した。

 

道中、コウジの運転する車の中で

昔話に花を咲かせた。

 

『あの頃のお前は、誰かを

見つけると金をタカってたよな?』

 

『そうやったっけ?

忘れたわ、もう。』

 

『高校生くらいまでやりよったよの?

高校の同級生からも

金をタカリよったやんか。』

 

『若かったしな、あの頃は。』

 

若いと言う理由で金をタカられたら

タカられた方もたまったもんじゃないな。

 

コウジはこう言い訳した。

 

『せいぜい100円とか500円やんか。

返って来んでも仕方ない額に

とどめとったんよ。』

 

しっかり覚えてるじゃないか。

 

現場の近くには駐車場が

なかったので少し離れた場所に

車を停めた。

 

すぐ戻ってくるつもりだったから

私は上着も着ずに手ぶらで

現場に向かった。

 

『ほら、この土地。

けっこういいやろ?』

 

『おお、道路も広いし

地型もいいなぁ。』

 

我々の業界でよい土地っていうのは

形がよく、接道部分も広く

前面道路の幅員が広いというのが

条件になってくる。

 

その土地はまさにそれらの

条件にぴったりで、良い土地だった。

 

と、そこでコウジの携帯電話が鳴った。

 

『あ、お客さんや。ちょっと

ごめん。  はい、もしも・・・』

 

あれ?とつぶやく。

どうした?と尋ねると。

 

『あらぁ、電池が切れた!

ちょっとヤマシタ電話貸して!』

 

『なんや、お前、「100円貸して」から

成長して「電話貸して」になったんか!』

 

私はちょっと意地悪を言ってみた。

 

『いや、大事なお客なんよ。

冗談はいいけ、早よ貸して!』

 

私はいつも上着の胸ポケットに

携帯電話を入れていた。

 

『あらぁ、ごめん。

車の中やん。置いてきた!』

 

『うわあ。あ!公衆電話が

あるやん。小銭あるか?

俺、財布も車の中やん。』

 

『いや、札しかない。』

 

え~どうしよう。 と本気で

困った様子だ。

 

と、そのときコウジは前方を

じっと見据えて大きな声を出した!

 

『ああああ!マツムラ~!

マツムラやないか~!』

 

『あ、あ、コウジくん?』

 

『おおちょうど良かった!』

 

聞くと、コウジの高校の同級生

とのこと。

こんな偶然もあるんだと

感心していた。

 

『わりい、マツムラ。

20年ぶりに会って申し訳ないけど

10円貸してくれん?』

 

するとそのマツムラ君は

眉間に皺を寄せてこう言った。

 

『コウジ君、まだタカリしよん?』

 

コウジはこのときほど、

過去を悔いたことはないらしい。

 

若い諸君。

 

大人になって恥をかくから

若いときから友人を大事にしようね。

 

ワカサユエ

 

合掌

 

 

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