318発目 記憶をたどる話。


ライナーノーツ

バックミラーを除くと見たことの

ある顔が映っていた。

 

信号で止まった時に

車を降りて後ろの車に

近づく。

 

窓をコンコンと叩くと

運転手は怪訝そうな表情で

窓を開けた。

 

『先輩!俺です。

ヤマシタです。』

 

後ろの車を運転していたのは

大学のときにバイトで

一緒だった先輩だった。

先輩が大学を卒業して以来だから

23年以上ぶりだ。

 

『お~!久しぶり!

よく分かったな!

なんで札幌に?』

 

バイトのあとに車で送ってもらったり

飲みに連れて行ってもらったり

何かとお世話になった先輩だ。

 

時間があるなら少し話を、と

その先にあるコンビニの

駐車場に入った。

 

先輩はうれしそうに

再会を喜んでくれた。

 

私は事情を話す。

 

大学を卒業し関東で働いていた。

その後、転職し福岡に戻ったが

今年の1月に転勤で札幌に来た。

とかいつまんで説明した。

 

先輩は私とは違う大学に

通っていた。

当時、何度かの留年と

浪人時代をくわえると

すでに23歳だったと記憶している。

 

付き合っていた彼女は

スナックで働いていて

よく連れて行ってもらった。

 

当時は金もなく、いつも

スナックの飲み代は

先輩のおごりだった。

 

結局、先輩は大学を卒業できず

当時の彼女と一緒に

生まれ故郷の札幌に戻ってきた

らしい。

今は、その彼女と結婚し

子供も3人いるらしい。

一番上の子は結婚して

今年の暮れには子供も出来る。

もうおじいちゃんだよ。と

笑ってらした。

 

懐かしい。

 

こんなうれしい偶然は

大歓迎だ。

 

その場で連絡先を交換し

今度のみに行こうと約束した。

 

今度は俺におごらせてください。

と、付け加えた。

 

数日後、先輩から

電話があった。

 

『あのさあ、キノコがさあ。』

 

キノコとは確か先輩の彼女で

今の奥さんの名前だ。

いや、厳密に言うと

奥さんのあだ名だ。

 

『キノコさんって先輩の?』

 

『そうそう、嫁さん。覚えてる?』

 

『もちろんです。どうしました?』

 

『ヤマシタが仲良かったさあ、

シンヤって子がいたろ?

彼からCD借りっぱなしらしくてさ

返したいけど連絡先しってる?』

 

どうやら、私と再会したことを

奥さんに話したところCDのことを

思い出したらしい。

 

シンヤ?

 

まったく思い出せないな。

 

『どんなヤツでしたっけ?

覚えてないんすけど。』

 

『あれ?そうなの?

仲良かったじゃん。てっきり

卒業後も付き合いがあるかと

思ってたよ。

知らないのか、じゃあいいや。

ごめんね。』

 

 

 

先輩、正直に言いますと

そのシンヤどころか

先輩の名前もまだ思い出せてません。

 

ゴメンネ

 

合掌

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