294発目 犬好きの話。


犬好き

犬好きに悪い人はいない。

 

そんな言葉を聞いたことが

あるだろうか?

 

私は何度もある。

 

これをいう人は一体、何を根拠に

言ってるのだろうと不思議に思う。

 

かと言って、数学的に言うところの

『逆もまた真なり』

は成立しない。

 

つまり

『いい人は全員が犬好き』

だ。

 

このロジックは成立しないことは

容易にわかるくせに

『犬好きに悪い人はいない』

が成立すると思っている。

 

国道沿いにある焼き鳥屋は

昔から地元の連中が集まる

憩いの場だった。

 

夜になると誰を誘うでもなく

行ってみれば、知り合いがいる、

そうゆう店だった。

 

20年ぶりに仕事の関係で

地元に戻った私は昼間に

その店の前を通った。

 

ああ、懐かしいな。

 

と、その時、店の前にいた

男が突然、信号待ちの車に

自転車を投げつけていた。

 

自転車を投げつけられた車の

運転手はどえらい剣幕で

車を降りてきた。

 

『こら!キサン、なんしてくれよるんか!』

 

ところが自転車を投げた方は

上半身裸になり、食って掛かって行った。

 

何かわめいているが聞き取れない。

背中にはびっしりと刺青が・・・

 

その運転手は国道のど真ん中で

ボッコボコに殴られていた。

 

私はもちろん、助けもしなければ

車を停めて鑑賞することもなく

黙ってその場をやり過ごした。

 

何故なら、自転車を投げつけてたのは,

私の1級上の兄ちゃんで

極悪の典型みたいな人だったからだ。

 

20年ぶりに見てもすぐにわかった。

 

兄ちゃんは小学校の時にすでに

無免許で盗難バイクを乗り回し

他校の中学生を殴打し、金を巻き上げ

教師に暴力を振るい、校舎に

火をつけ、ヤクザの車に牛乳瓶を

投げつけるといった行動をとっていた。

 

当然のように中学に上がってからは

その素行の悪さに拍車がかかり

廊下をバイクで走り、校内でシンナーを吸い

奇声を発しながらグランドを駆け回り

そして案の定、校長先生の車に

火をつけた。

 

誰がどう大目に見ても

傷害、殺人未遂、強盗、窃盗、放火

の5つで実刑の判決を頂いても

おかしくない所業だった。

 

気に入らないことがあると殴る。

殴ったついでに持っている金を

根こそぎ巻き上げる。

気に入らないことがあると火をつける。

火を付けた後、高笑いをする。

 

目が合うと、呼ばれ殴られ

金と自尊心を奪っていく。

 

目つきも鋭く髪型はパンチパーマで

左目にはナイフの切り傷があり

その傷は唇の端にまで達していた。

 

見た目も素行も言葉使いも

すべてにおいて100点満点の彼は

犬を愛していた。

 

おそらく彼が暴力を振るわなかった

生き物は犬だけではないだろうか?

 

我々は考えた。

 

なぜ、犬には優しいのか?

 

答えは見つからなかった。

 

ある法則がある。

 

不良が雨の日に捨て犬を助けてたら

女にもてる・・という法則だ。

 

だが、彼はもてなかった。

 

犬好きだから・・・というのが

通用しないくらい怖い人だったから。

 

このエピソードで気づいて

もらえただろうか?

 

犬好きにも悪い人がいる

 

て事を。

 

ちなみに補足するなら

ジャイアンツファンに悪い人はいない

と言うのなら、彼はアンチ巨人なので

成立するかもしれない。

 

しかし、書いてて怖くなった。

 

アノヒトガヨミマセンヨウニ

 

合掌

 

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