暑中お見舞い申し上げます。
丈夫な体が自慢だった。
これといった大きな病気や
怪我も無く、すくすくと育った。
26歳ころから視力が悪くなったのと
胃腸が弱いことを除けば
日常生活で困ることは
まるっきりなく、
ただ、ただ快適な生活をしていた。
29歳から一人暮らしを始め、
生活が乱れ始めた。
まず、食生活が乱れ、
次いで、睡眠時間が少なくなり、
胃潰瘍ができた。
仕事も忙しく、早朝から
夕方までびっしりと働き、
そして中洲で朝まで酒を飲む。
そんな生活を続けていれば
いくら若くても体に異常をきたす。
とうとう、ある朝、起きようと思っても
体が言うことを聞かず、
身動きが取れなくなった。
かろうじて残った体力で
会社に連絡をする。
電話を受けた同僚が自宅まで
来てくれ、私を病院へ
連れて行ってくれた。
口を大きく開け、のどの奥を
名前も分からない医療器具で
ぐいっと押される。
上半身の衣服を剥ぎ取られ
聴診器を当てられ、仕舞いには
レントゲンも撮られた。
しばらく待合室で待たされた。
看護婦が呼びに来て
もう一度、先生の前に
座らされる。
年老いた先生は気さくな方で
この地で祖父の代から数えて
今年で開業96年だと言う。
先生自体は30歳のときに跡を継ぎ
今年で45年目との事。
つまり1954年からやってるとの事だ。
カルテをじっくりと眺めた後、
ゆっくりと私に向き直り、
重い口を開いた。
『先ほども申し上げた通り、
私はこの仕事を45年やっている。
1960年代なってからは
ここを訪れる患者の様子は一変した。
風邪や、発熱、腹痛などなど、
私に言わせれば軟弱が故の
病気が増えたわけだ。』
なにやら説教じみてきた。
『ところで、あなたは、
普段どういった生活をしてますか?
食事はどのようなものを摂ってますか?』
『そうですね、小食なので
あまり食べません。
早く帰ったときは面倒なので
インスタントの食品か、
カッパえびせんです。』
『お酒は相当飲むのでしょう?』
『そうですね。毎日飲みます。』
う~ん。と唸る先生は
またも考え込む。
『私の記憶が確かならば
この診断を下すのは
1959年以来です。』
私は少し怖くなった。
なんだ?どえらい病気なのか?
『先生、私はいったい・・・』
『はい、栄養失調です。』
なんと!
平成の、しかもこの飽食の時代に
栄養失調だなんて!
『いいですか。
焼酎には何の栄養素もないんですよ。
あなたに必要なのは休息と
料理の上手な奥さんです。』
医者は形式どおりの薬を処方し
こんな病気で二度と来るなと
念押しをし、私を診療室から追い出した。
見送ってくれた看護婦も
受付のお姉ちゃんも笑っていた。
気のせいだろうが
病院を出るときに看護婦が
お大事にではなく、
『しっかり食えよ』
と言った気がした。
暑い日が続きます。
皆様、くれぐれもご自愛ください。
オダイジニ
合掌