291発目 『ウソ~ん』って言いたくなる話。第5話


二股

今は葬儀場になっているところは

ボクらが学生の頃はボーリング場だった。

 

ヒロシとは良くボーリングに

行っていた。

 

その日は、昼間の授業が

休講になり、暇だったんで

『じゃ、ボーリング?』

ってなったんだ。

 

受付を済ませ靴を借りる。

自分に合うボールを物色していたら

ヒロシが離れたところで

女の子をナンパしていた。

 

その女の子達二人を加え

4人でゲームすることになったんだが

二人とも露出の多い、

いわゆる『エロい』格好の

女子だった。

 

自然と、ボクらの頭の中は

『エロい』想像で満タンになる。

 

ストライクを取るとハイタッチをし

ついでにハグしたりして

ボディータッチはエスカレートする。

 

女の子達も嫌がるそぶりも見せず、

ボクとヒロシは 『これはイケる。』

と思い始めていた。

 

軽佻浮薄とはボクらのことを

言うんだろうな。

 

と、そのときヒロシが顔を伏せた。

そして小さな声で

『サトルちゃん、やばいよ。

あんたの彼女があそこにおるよ。』

 

ヒロシが指差したほうをみると

完全に怒りの頂点に達した顔で

ボクの彼女が立っていた。

 

なぜ?なぜここに?

見間違いか?

もう一度、見てみる。

ああ、ボクの彼女だ。

見たこと無い顔で怒ってる。

 

 

彼女は小さく手招きしボクを呼んだ。

 

おそるおそる近づいていくと

『誰?あの女。』

とボクに目もあわせず言った。

 

『いや、あの、その・・・』

 

『なんね?はっきり言わんね。』

 

『え~っと、ほら、その・・・』

 

『だ・れ・ね?』

 

『いや、知らん人。』

 

『ほう、そんじゃ何ね?

あなたは見知らぬ人と抱きついたり

見知らぬ人のお尻を触ったり

しよったんね?』

 

『いや、お尻は触ってないけど・・』

 

『ちょっと、こっちに来なさい。』

 

ボクはヒロシに断ってから

彼女の後に続いた。

 

受付脇の階段を降りて

1階のホールに降り立った。

 

そのとき自動ドアの手前に

キョーコちゃんが立っていた。

先ほどの驚きがまだ冷めてないのに

もう一度、かぶせるように驚いた。

 

それはまるで、プールで溺れそうになって

やっとの思いで水面に出たら

頭から水をかけられた気分だった。

 

息が出来ない。

 

『この子、知っとうよね?

私の職場の後輩たい。

前に話したよね?

この子、気になる人がおるって。

よくよく話を聞くと、それが

どうやら私の良く知っとう人と

似とるんよね。どうゆうことか

説明してみ。』

 

『あ、え?』

 

『先輩の彼氏だったんですね?

どうして言ってくれなかったんですか?』

 

ああ、いかん。

いつの間にかキョーコちゃんが

敬語に戻っとる!

 

何か言わなきゃ。

何か言わなきゃ。

 

『何か言わんね!』

 

もう何がなんだか分からなくなった。

 

一度、頭の中を整理しよう。

 

つまり、ボクが車庫入れの練習で

付き合ってた女の子は、実は

ボクの事を気に入ってて、

そのことを職場の先輩に

相談したら、その先輩の彼氏だったと。

 

ああ、なんてこった。

 

これってどれくらいの確率なんやろ?

あるんか?こんな偶然?

 

『何か言わんね!』

 

もう、頭の中が真っ白になったボクは

やっとの思いで一言を口から

搾り出した。

 

 

 

 

『ウソ~ん』

 

ニトヲオウモノイットモエズ

 

合掌

 

この話はフィクションであり、
登場する人物、団体、施設などは
架空のもので実在しません。
誰のことだろう?とか
余計な詮索は不要です。

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