新千歳空港から札幌に向かう列車は
比較的混んでいた。
ようやく見つけた空席に滑り込み
一息つく。発車まではまだ10分ある。
札幌までの所要時間は38分だから
あと約1時間後には札幌駅に着くなと
頭の中で計算する。
隣の窓際の席には若い女の子が
一生懸命ファンデーションを顔に
塗りたくっている。
ちっ、電車の中で化粧するなよ!
注意しようかなと思ったが、放っておくことにした。
『うるせえよ、おっさん!』
って言われたら残り1時間を嫌な思いで
過ごすことになるからな。
代わりに、この少女にこんな話を
してみようかと、ふと思った。
さて、本題に入る前にビタミンCについて
話しておかなければならないだろう。
多くの生き物のなかでもヒトだけが
ビタミンを体内で生成できない。
そのため外部から摂取する必要がある。
およそ60日から90日間のあいだ
ビタミンを摂取しないと体内のビタミンの
在庫が300mg以下になりビタミン欠乏症と
なる。よくわからないがそうなると壊血病に
なるらしい。
Wikipediaによると16世紀ごろの壊血病は
海賊よりも恐れられていたらしい。
ちなみに壊血病に至らなくても長期間にわたり
ビタミンが不足していると老化が進み
最終的には早死にするらしい。
逆に大量摂取するとどうなるか?
体内で必要とされるビタミンの量は決まっていて
大量に摂取しても余ったビタミンはシュウ酸に
変身するのだ。変身したシュウ酸は腎臓を傷めつけ
腎不全を引き起こすことがある。
つまりビタミンは丁度良い量を摂取する
必要があるということだ。足りなくても
多すぎてもだめということだ。
さて電車が発車してから、かれこれ1時間。
そろそろ札幌駅に着くころだが
依然として私の隣に座る少女は
右手にパフを握りしめファンデーションを
ほっぺに刷り込んでいる。
もう1時間だぞ。
ビタミンと化粧は一緒のようなものだろ?
足りなくてもやりすぎてもだめだぞ!
過ぎたるは及ばざるがごとしと言う
ことわざを知らないのかい?
札幌で下車しエスカレーターを降りたところで
携帯電話に着信があった。
キャリーケースを立て、通路の脇に避け
電話を取る。お客さんからだ。
電話で会話をしている私の前を
先ほどの少女が通り過ぎて行った。
少女は口紅を塗りながら歩いていた。
ある意味、器用なのね。
イエデ、ヤッテコイ。
合掌