AX~アックス~


伊坂幸太郎の新作は必ずハードブックで購入して読むことにしている。誰よりも早く読了して「伊坂の新作、読んだ?」と聞かれても「あったりめえだろ!」って答えたいからだ。

 

じゃあ、今までに誰かに「伊坂の新作、読んだ?」と聞かれたかと言うと、実は一度もない。

 

「だったら文庫本になるのを待ちゃあいいじゃねえか」

 

と口の悪い人は私を卑下するだろう。だがいつか「伊坂の新作、読んだ?」と誰かに聞かれる日が来るのをひたすら信じて、書店に並んだ瞬間に購入することを、私は続けるだろう。

なぜなら伊坂の作品は例外なく面白いからだ。

 

グラスホッパー、マリアビートルに続く殺し屋シリーズ第3弾の本作品は、悲しいけど爽快、軽妙でかつシニカルという訳の分からん感想を述べたくなるものに仕上がっている。

 

「ヤマシタ、どうせお前はそれっぽい言葉を並べて書評したつもりになってるんだろ?」

 

と口の悪い人は私を卑下するだろう。「なんだとう!」と強く否定できないのが悲しいが、まあそれっぽい言葉ってこんな時しか使えないだろ?大目に見ろよ、と言いたい。そう、つまり「それっぽい言葉を並べて書評したつもり」だということを認めた、ということだ。

 

それを踏まえたうえで、このレビューを読んでくれ。

 

主人公の殺し屋は、今までに何人もの人の命を奪ってきた。それが仕事だからだ。だが、そんな裏の顔とは別に家に帰ると愛する妻と息子を大切に思うただの一人の男だった。普段は文房具メーカーに勤める『兜』は業界では誰もが一目を置く一流の殺し屋だ。だが一方で極度の恐妻家という一面も持つ。

 

『兜』の本来の姿を知らない息子の克己は「どうしてそんなにお袋にびびってるんだ」と父親の姿に疑問を持つが、一方で「それくらいお袋を愛してるんだな」とも思う。「親父はいつもお袋に謝ってるなぁ」

 

『兜』の仕事の仲介は都内のオフィス街に診療所を構える医師が行う。診察の振りをして兜と二人っきりになり、仕事の依頼をするのだ。「この悪い腫瘍は取り除かなければなりません。」などとまるでカルテを読み上げるように医師は語る。そして「手術は1ヶ月以内にやるように」と告げる。つまり「こいつは悪い奴だから殺して来い」という意味だ。

 

兜はかねてよりこの仕事から足を洗いたいと思っていた。だがそれを医師が許さない。「あなたが辞めると困る人がたくさんいる。その被害はお金でまかなえるものではあるが、あなたの今の働きだとまだそれには不足している」

 

仕方なく兜は仕事を請け続ける。だがそんなある日兜ははっきりと医師に辞める意思を表明する。「もうあれからだいぶ経つし、不足分は十分埋めただろ?俺はもう引退したいんだ」

 

だが、というか案の定というか医師はそれを許さない。「まだ足りません」

 

しかし今回に関しては兜の意思は固かった。どうしても仕事を請けようとしない兜に医師は別の殺し屋を派遣する。それは兜にとって初めてできた友達と言える人物だった。

 

「あなたを始末しないと私は息子を人質に取られているのです。」

 

友人は苦しそうにそう説明し、兜をビルの屋上に呼び出した。事情を察した兜は達観した様子で友人にこう告げた「オレもいままで命乞いする奴らを何人も殺してきた。今更オレだけが命乞いして助かろうとするなんて都合がよすぎる」

 

そして兜は屋上から飛び降りる。

 

「別れの言葉を告げずに死んでしまう俺を妻は怒るだろうな」と恐妻家らしく最後まで妻を気遣う兜だった。

 

父親を亡くした兜の息子の克己はひょんなことから父親の死の原因に疑問を持ち出す。「親父は自殺ではなかったのではないか?」 克己は調べを進めるうちに初老の医師と出会う。医師は生前の父親を、つまり兜を知っていると克己に言う。そして克己すらを手にかけようとする。

 

父親の死の真相に近づいた克己と、真相解明を阻止しようとする医師、そしてそれを予測していたかのような兜の仕掛け。はたして克己は無事でいられるのか?

 

「俺はな、息子の命を守るためならこの命を捨てても構わないんだ」

 

子を持つ親なら誰もが共感するこの言葉に読者はきっと胸を打たれるだろう。

 

さあ、興味があるなら今すぐポチンだぞ。

 

合掌

 

 

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