祝500発目 冷える話。 



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もうこの体勢でどれくらいの時間が経っただろう。 いいかげん足がしびれてきた。 しかも全裸だから寒くてしょうがない。 だが、今はじっと我慢のときだ。 いずれ好機は訪れるはずだ。 ヤマシタは1人その薄暗い空間でじっと時が流れるのを耐えていた。

 

だが、現実とは悲しいものでヤマシタがもう何十分も経過したと思ってるのとは裏腹に実際はまだ5分しか経ってない。 全裸と言うことは当然、時計もしていないわけで、そうすると時間の経過がゆっくりに感じるから人間と言うのは不思議なものだ。 ともあれ話を5分前に戻す必要があるだろう。そう、ヤマシタが何故、薄暗い空間で全裸で過ごしているかを。

 

5分前?いやいや、この状況をきちんと説明するには1時間前に話を戻す必要がある。

 

ちょうど1時間前、ヤマシタはこの旅館で夕食を摂った。 そして彼の妻に促されるまま部屋で浴衣に着替え、この大浴場にやってきた。 入り口の前で二人は立ち止まり風呂上りの待ち合わせ場所を相談した。

 

『多分、俺の方が早いと思うけどそこの休憩室で待ち合わせて部屋に戻ろうか?』

 

部屋の鍵は一つしかなく、持ってないほうが早く風呂から上がると不便だろうということから、そうゆう段取りになった。 確かに普段からヤマシタの温泉での過ごし方をみると、長くても40分くらいで出てくることが多い。

 

彼は体を石鹸で洗わない。 頭髪にはシャンプーを使うがそれ以外は素手で洗う。 そうしだしてから乾燥肌で冬場にカサカサしていた肘や太ももの症状がよくなったからだ。 そのため彼の入浴のルーティンは入ってすぐにシャンプーをし、40度くらいの湯に浸かったあと、サウナ5分から水風呂、の2セット。だから早ければ30分ほどで上がって来る。

 

じゃあ、又あとで、とヤマシタが脱衣場に入ったのが19:05のことだった。

 

丁度、それと同じ時刻。 宴会場で50名ほどの団体が食事を終え、女中に風呂の場所を尋ねていた。 女中は困惑し、支配人にお伺いをたてた。 なぜ、女中が困惑したかと言うとその団体は反社会勢力の方々と思われる団体だったからだ。 乱れた浴衣の隙間からチラチラ見える刺青が従業員全員を恐怖へと縛り付けていた。 来館されるまでそういった方々とは思いもしなかった支配人はとりあえず食事を出すが、今夜は宿泊せずにお引取り願おうと考えていた。

 

風呂の場所を尋ねられたことにより支配人の決断は予定より早まることになりそうだった。 つまり風呂には入らずにヤクザは帰れ!と勇気を出して言うべき状況になっていた。 ところが驚くことにそのときの支配人は別の女性従業員にこう尋ねた。

 

『いま、誰か大浴場に入ってらっしゃるお客様はおるか?』

 

『はい、鈴の間のお客様が入ってらっしゃいます。』

 

『何人だ?』

 

『お1人です。』

 

しばらく逡巡した支配人はこう決断した。

 

『団体様をお風呂にご案内しなさい。と同時に別のお客様の入浴をお断りしなさい。』

 

『支配人、別のお客様にはどう説明しますか?』

 

『故障点検だとでも言っておけ。そうでもしないとクレームになるぞ。』

 

後のヤマシタからの詰問で支配人はこう答えていた。 『問題を先送りしました。 怖かったんです。』 と。

 

酔っ払いの反社会勢力の団体はわいわいと騒ぎながら大浴場へ向かった。 大人数のヤクザが脱衣所に入ったのが19:15のことだった。

 

 

19:05に脱衣所に入ったヤマシタは全裸になると体重計に乗った。 自分の体重を確認したあとトイレに入る。どうも食後から便意がしてしょうがなかった。 どうせなら入浴後よりも入浴前の方が良いに決まっている。 ヤマシタは迷わずトイレに入った。 その直後、トイレの外ががやがやとうるさくなった。団体のお客さんが入ってきたのかな?くらいにしか思わなかった。

 

扉を強く叩かれたのはその2分後だった。 『お~い、誰や~。 早よ出て来んか~い!』 ヤマシタはビビった。「なに?なに? いまのなに?」 とただただおびえるだけだった。

 

『おい!誰が入っとんか!アニキが待っとんしゃあったい。 出て来いボケ!』

 

多分だがこの方々はトイレも含めて自分達の貸切だと考えていた節がある。 だから仲間を諭すときの口調でトイレのドアを叩いたのであろう。 ヤマシタは結論を出した。 ここから出て行くのは危険だ、と。

 

『もうええわ。洗い場でするわ。』

 

『アニキ、それは勘弁してくださいよ!』

 

『なんや?ワシの小便は糖尿病やけん蟻がたかるとでも言いたいか?ガワッハッハ。』

 

 

 

ヤマシタは心の中でつぶやく 『全っ然、笑えん。』

 

やがて脱衣場は静かになった。 全員が浴室のほうに移動したのだろう。だがヤマシタはまだ動けない。彼ら全員が上がってからではないと鉢合わせしてしまう。 先ほどのごたごたでトイレの照明は消されてしまい真っ暗になっていた。かろうじて小さな窓からの月明かりが余計に悲しみを演出しているようだった。

 

しばらくすると脱衣場を歩く人の足音が聞こえた。浴室との引き戸をガラリと開ける音がし、続いて罵声が飛んだ。

 

『おい、兄ちゃん。 便所のドアが壊れとるぞ。開かんくなっとうぜ。だけん小便出来んやったやないや。』

 

『は、はいい。申し訳ありません。すぐにチェックします。』

 

従業員と思われる兄ちゃんはトイレのドアをガタガタと鳴らした。 ヤマシタはこれは千載一遇のチャンスじゃないか?とひらめいた。 小さな声でドアの外にいる従業員に声をかける。

 

『すみません、助けてください。』

 

従業員の兄ちゃんは驚いて声をかけてくれた。

 

『どなたかいらっしゃるのですか?』

 

『はい、あの。今入ってる人たちってヤクザですよね?私がトイレに入ってたらがやがやとやってきて、怖くてここに閉じこもってるんですけど。』

 

『ああああ!すみませ~ん。 あの、あの いかがいたしましょうか?』

 

『ちょっと見張っててください。 彼らが風呂に入ってる隙に外にでて私は出て行きますから。』

 

『は、はい。分かりました。 今なら大丈夫です。 どうぞ。』

 

こうしてヤマシタは着の身着のまま妻と待ち合わせる休憩場へと脱出できた。 珍しく妻より出てくるのが遅かった夫を見て妻は驚いた。 風呂に入る前と髪型が変わってない!そのことを妻は夫に尋ねた。 シャンプーをしなかったのか?と。

 

ヤマシタは事情を説明した。 寒くて死にそうだ。風呂に入りに行って冷えて帰ってくるとは何事だ。ヤマシタは部屋に戻るなり支配人を部屋に呼び出した。

 

『お前のところはヤクザを宿泊させるんやな? 暴対法は知ってるな? 警察に通報する!こっちは風邪ひきそうなんですよ!』

 

すると支配人はこう提案してきた。

『何卒、ご内密にお願いいたします。 もちろん、ご内密にしていただけるのなら今回はヤマシタさまからご料金はいただきません。 それから後ほどヤマシタ様だけ貸切でご入浴できるように手配いたします。何卒、何卒。』

しかたない、とヤマシタは支配人の提案を受け入れた。

『ご理解いただき、ありがとうございます。どうぞお風邪など召さぬように。』

そう言って支配人は封筒を差し出した。 ヤマシタはすぐに中身を確認したかったがプライドがソレを邪魔した。 そして黙って封筒を受け取ると支配人は持ち場へと戻っていった。

 

 

『なんだろうこれ?結構ぶ厚いよ。大金?』

 

妻は嬉しそうに先ほどの封筒を手にした。 ヤマシタもソレが気になっていた。 開けてみろよ、と妻を促す。

 

封筒から出てきたのは風邪薬だった。

 

ヤッパリルルガキク

 

合掌



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