435発目 心の声の話。


ライナーノーツ





羽田から浜松町に向かうモノレールは比較的空いていた。僕は1人、車窓から外を眺めている。四人がけのボックスシートだ。国際線の駅から二人の女性が乗り込んできた。車内に入るなり大きな声で話している。すごく太っている女性(以下LL)とまあまあ太ってる女性(以下L)の二人だ。歳の頃は僕よりも年上だが年寄りではない。恐らく40代の後半から50代前半だろう。

『あ、お兄ちゃん、横、ええかな?』

LLが話しかけてきた。僕のことをお兄ちゃんと呼ぶことからやはり僕より年上なのだろう。

『どうぞ。』  『ありがと。』

ぐいぐいと座ってきた。四人がけのシートの僕の向かい側は誰も座ってない。にもかかわらず向かい側の広いスペースにLが座った。

心の声

”逆やん!LL、お前が向こう側やん”

必然的に僕は窮屈な思いをしなければならない。

 

『なあなあ、東京来てな、一番つらかったんって何?』

『ああ、東京弁やね。』

『あんた、そんなんゆうて土佐弁、抜けちゅうが。』

『あんたかって抜けちゅうが。』

心の声

”どっちも抜けとらんわ!”

 

『ほんならな、逆に何が一番うれしかったん?』

『ああ、うれしかったんはあれやな。ジャニーズのコンサートに日帰りで行ける。』

『ほんまやな。高知やと絶対泊りがけやったもんな。』

『何が嫌て、あんたホテルのベッドがこおまいがやき。』

『あんた太ってるもんな。』

『あんたに言われたないわ。』

心の声

”どっちもどっちや。”

 

『あそこ、うっとおしない?恵比寿?』

『恵比寿の何?』

『駅やが。埼京線で来て改札抜けるまでの距離。うっとおしいわ。』

『ああ、遠いもんな。めっちゃ歩かすもんな。けどあれやで、動く歩道あるで。』

『けど遠いわ。一駅分くらい歩いてるんと違う?膝痛くなるもん。』

『ああ、あんたそれ太ってるからや。』

『あんたに言われたないわ。』

心の声

”もっと歩いてやせろや!狭いんじゃ。”

 

『あ、でもあんたちょっとやせたんちゃう?』

『やせてないよぉ。ほんのちょっとや。』

『何グラム?』

『何でグラムやねん。キロで聞いてさ。』

『ほんなら、何キロ?』

『0.8キロ』

『800グラムやん!』

心の声

”いかん。今のちょっと笑ったわ。”

 

『あ、もう着くな。浜松町で何か食べる?』

『うどんにするか?』

『うどんえ~な~』

『ラーメンでもええで。』

『ラーメンなぁ。』

『なあ、兄ちゃん。ラーメンは何が好き?』

心の声

”え?いきなり俺?”

『ああ、僕はトンコツです。』

『え?そうなん。そしたら兄ちゃんが薦めてくれたしトンコツにしよか?』

『せやな。兄ちゃんありがと。』

心の声

”いやいや、薦めてないよ。聞かれたのに答えただけやん。”

 

『兄ちゃん、ウチらな二人とも独身やき。』

心の声

”そうでしょうね。きっとそうでしょう。”

 

『え?何て?』

『兄ちゃん、言うなぁ。がっはっは。』

 

おっと。最後の一言は声に出てたのか。

今日の一言。

傍若無人【ぼうじゃくぶじん】
傍ら(カタワラ)に人、無きが若し(ゴトシ)の意味。
そばの人に遠慮せず、勝手な行動をする様子。

 

ナンダッタンダロウ

合掌

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