415発目 猫の話。


金縛りの猫

そもそも金縛りというのは

霊的な現象ではなく

『疲れ』から来るものだと

私は思っている。

だから、そんなに怖がる

必要はない。

 

体が動かないのに

意識ははっきりしている。

 

これが金縛りの状態だ。

 

だが、それごと丸っと

夢だとしたらどうだい?

 

そうゆう夢を見ていたんだよ。

 

そうすれば説明がつくだろう?

 

大学生になり、一人暮らしを

始めた私は、月々の限られた

予算の中から、又、大学からの距離で

家賃23,000円の安アパート

に決めた。

 

セキュリティの面から

1階の部屋は安い。

 

だが、私はあいにく

盗まれるような高級品は

持っていないし

階段を上がるのが億劫なので

その人気のない安い物件が

私にこそ必要な物件だった。

 

大学生活にも慣れ、

生活は徐々に乱れていった。

 

夜更かし、朝寝坊

飲酒、喫煙、麻雀、バイト。

 

当然、体はどんどん疲れが

溜まってくる。

 

いくら若いとはいえ

そこは普通の人間だ。

 

ある時、とうとう耐え切れずに

授業をサボって昼寝をした。

 

普段なら授業に出て

机で眠るのだが

この日ばかりは学校までの

数分すら歩くことが

億劫だった。

 

 

ぽかぽかと暖かい日差しが

窓から差込む昼下がり。

 

昼食後の満腹感と

ちょっと休憩のつもりで

ベッドに横たわった。

 

私の部屋は前述したとおり

1階にあり、掃きだし窓を

あければそこはベランダではなく

専用庭がついている物件だった。

 

私は窓を開けたまま

眠りに就いた。

 

どれくらいの時間が経過しただろう?

 

気がつくと玄関の呼び鈴が

鳴っている。

 

は~い。

 

と返事をするが口だけが

動いて声が出ない。

 

仕方ないから起きて

玄関まで行こうとするが

今度は体も動かない。

 

首から上だけが

むなしく微かに動くだけだ。

 

誰かぁ~誰かぁ~

 

叫ぶが、やはり声は出ない。

 

次第におなかの辺りが

重く、そして熱くなってきた。

 

なんだか生暖かい何かを

腹の上に乗せられたようだ。

 

必死で見ようとするが

今度はまぶたが開かない。

 

こ、これは金縛り?

 

そう気づいたが私には

なす術がない。

 

体中の色々なところに

力を入れてみるが

びくともしない。

 

どれくらいその呪縛と

戦っていただろうか?

 

何の前触れもなく、ふっと

体に力が戻ってきた。

 

やった!動くぞ。

 

だが、腹の上の

生暖かさは先ほどのままだ。

 

そっと目を開けて見る。

 

仰向けに寝る私の

腹の上には6匹の

野良猫が昼寝をしていた。

 

結論。

金縛りとは猫の呪縛。

 

私は驚きのあまり

何を言っていいか分からずに

小さな声でこう囁いた。

 

『みゃあ』

 

猫どもはいっせいに

開いた窓から逃げていった。

 

大学を卒業してアパートを

引き払うまでのあいだ、

天気のいい日になると

猫達が私の腹の上に

集まって昼寝をすることが

十数回もあった。

 

私はそのたびに

金縛りにあう夢を見るのだ。

 

だから。

 

だから、みんな。

 

金縛りは怖くないぞ。

 

タダ、アッタカインダカラァ

 

合掌

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