344発目 火星のペットの話。



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なまこ





夢を見た。

いや、夢のような気がする。

 

ひどく寒い日の夢だ。

でもそれは夢じゃなくって

現実の事かもしれない。

 

ボクは布団に包まって

ぼんやりと天井を見ていた。

 

まだ寝ぼけていたので

ここがどこだか分からない。

 

ふすまの向こう側から

声がするので四つんばいで

ふすまに近づきそっと小さく

開けて見る。

 

ふすまの向こうには

ボクの母親と母親の両親、

つまりボクにとっての

じいちゃんとばあちゃんが

座っていた。

 

3人ともコタツに入っている。

 

ボクは立ち上がりふすまを開けた。

 

『おお、サットリ、起きたか。』

 

ビールで程よく酔っ払った

じいちゃんが機嫌よく笑った。

 

このころのボクはじいちゃんから

『サットリ』と呼ばれていた。

忍者ハットリくんをもじったんだと

思うが真相は分からない。

 

みんなはテレビで紅白を観ていた。

 

よく見るとコタツの向こう側には

イビキをかいて寝ている人がいる。

ああ、父ちゃんと妹だ。

 

どうやら食事のあとに

寝てしまったボクを布団に

寝かしてくれてたらしい。

 

ここはじいちゃんの家だった。

 

コタツの上には、おせち料理と

お酒と年越しそばが乗っていた。

 

『おい、サットリ、喉が

乾いたじゃろ?こっち来て

麦茶飲め。』

 

じいちゃんはいつも麦茶と言って

ボクにビールを飲ませようとした。

 

もうその頃には引っ掛からなくなって

いたボクは、無言で首を横に振り

本物の麦茶を飲みに台所に行った。

 

ふと、台所のシンクに

目をやると、気色の悪い

物体が洗面器に入っていた。

 

ウゴウゴと蠢(うごめ)いている。

 

ボクは宇宙から来た

エイリアンかと思った。

 

あれ?これって夢だっけ?

 

それともボクは起きてるの?

 

夢か現か分からない。

 

でも目の前の地球外生命体が

今にも襲ってきそうで、ボクは

出来れば夢であってほしいと

思っていた。

 

恐怖で立ちすくんでしまった。

 

お酒を取りに来たじいちゃんが

立ちすくむボクを見てこう言った。

 

『サットリ、触るなよ。

食い付かれるぞ。』

 

僕の恐怖は頂点に達していた。

『じいちゃん、これ何?

生き物なん?』

 

『あほか、それはのう、

昨日、火星からお客さんが

来たんじゃが、その人が

忘れて行ったペットじゃ。』

 

『え!じいちゃん火星に

知り合いがおるん?

宇宙人やろうもん?』

 

『お前は知らんかったんか。

わしが昔、消防署で

働きよった時にのう、はしご車で

うっかりはしごを伸ばしすぎて

火星に先っぽをこっつけたんじゃ。

ほしたらのう、署長が菓子折りもって

謝ってきんさいっちゅうてのう。

そんときに知りおうたんじゃ。』

 

『すげえ!火星には

どうやって行ったん?』

 

『はしごがブチ刺さっとるけえ、

それをよじ登って行ったんじゃ。

お!ほれ、見てみい。

火星のペットが動きよるわ。』

 

ボクは怖くなったので

こたつの方に戻って

お母さんの横に座った。

 

『ねえ、お母さん。

じいちゃんね、火星人の

知り合いがおってね、

その人が変なペットを

忘れて行ったみたい。』

『はあ?何ねそれ?

じいさ~ん、あんたまた

サトルに変なこと吹き込んだろ?』

『わしはのう、嘘はついとらんぞ。

全部冗談じゃ。』

 

そのあと、ばあちゃんが

その火星のペットを切り刻んで

こたつに持ってきた。

ねぎと醤油とカボスをかけて

『ほれ、サトルも食べんちゃい。』

とふるまってきた。

 

 

当然のようにボクはそれを

食べることが出来なかった。

 

大人になって久々に

火星のペットを見ることに

なったのだが、ようやく

それがナマコという代物だと

分かったんだ。

 

でもボクは未だにナマコは

食べられない。

ボクの中ではあれは火星のペット

なんだ。

あの時の出来事が夢か現だったのか

未だにはっきりしない。

じいちゃんも死んだので

確かめようがないし、

仮に確かめてもじいちゃんは

きっと嘘しか言わないだろう。

 

なにしろボクのじいちゃんは

8割が冗談で2割が嘘の人だから。

177発目 おじいちゃんの言いつけの話。

 

ナマコ タベテミヨウ

 

合掌

 

 

 



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