166発目 説教じみた話。


ライナーノーツ

初めてパーティーに行ったのは
20歳の頃だった。
小学校からの幼馴染に誘われた。

その子は女の子で既に社会人に
なっており、私は大学生だった。

男女の数が同じくらいじゃないと
盛り上がらないから、人数合わせで
来てくれとのことだったが
こちらとしては女性と知り合うためにも
またとないチャンスだったので
二つ返事でOKした。
『行きます、行きます』と
坂上二郎のモノマネまでした。

さてパーティはクリスマスを
間近に控えた男女およそ60名くらい
が参加しており、会場のあちこちで
カップルが出来ようとしていた。

トニックソーダを両手に持った男性が
私に近づいてきて
『どう?いい子いた?』
と聞いてきた。

私はトニックソーダを受け取りながら
『うん、何人かはね。君は?』と答えた
『俺はイマイチかな』と
トニック男は残念そうに言った。

私は無視するのも失礼と思い
トニック男の話にしばし付き合うことにした。
一人よりも二人で組んだほうが
ナンパがうまくいきそうな気もしたのは
事実だ。つまりトニックをダシに使うのだ。

社会人かと思った彼は
実は近所の専門学校に通う男で
沖縄出身だという。
香椎の駅の近くで一人暮らしをしているとのこと。

私は電話番号とアパートの住所を教え
今度、飲みに行こうねと誘ったら
トニック男はにったりと笑い
『じゃ、がんばってね』と
去っていった。

ああぁ、ダシが~

取り残され一人になった私は
ナンパもうまくいかず、
待つ者のいないアパートへ
千鳥足で帰った。

翌日、トニック男から電話があった。
会えるかな?と聞く彼に
今日は今から講義だから会えないよ
と言うと、残念そうに『実はさ・・』
と切り出してきた。

昨日、一人にされた恨みから
私はトニック男にもはや興味はなかったが
一応話だけは聞こうとした。

 

彼は唐突にこう言った。

『君のことが好きになったんだ』

私はあとにも先にも
男性に告白されたのはこれが
初めてで、文字では表現できないくらいの
気色の悪い悪寒が背中を走った。

『今から会いにいくよ』と
宣言したあとに電話を切られた。

私はとりあえず洋服を何枚かと
財布を掴んで、その場から逃げた。

およそ2週間くらいはアパートに
帰らなかった。
そのあいだは友達の家を
泊り歩いた。

さすがに向こうも諦めたのか
私のアパートには現れなくなったが
2週間連絡をとっていなかった本命の彼女に
振られてしまった。

つまり。
こういうことだ。

彼女がいるのに軽い気持ちで
パーティーなんかに行くもんじゃない。
トニック男にカマを掘られるぞ。

思えばまだ携帯電話がない時代だったな。

ムダナニシュウカンダッタ

合掌

“166発目 説教じみた話。” への2件の返信

  1. 男に狙われて高飛び…

    脳裏に坂上二郎風山下君がくっきり。

    飛びます、飛びます!

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