724発目 はた迷惑な名言の話。


犬を飼っている。

 

小さな小さなメスの

白いプードルだ。

 

詳しくは知らないが

タイニープードルという

種類に分類されるらしい。

 

昨年の9月に生まれた子だ。

 

可愛いか?

 

と聞かれればこう答える。

 

『可愛い』と。

 

 

だからと言って

我が子のように、とは

ならない。

 

もちろん

家族の一員として

迎え入れているが

あくまでも彼女は

犬である。

 

 

人間ではない。

 

愛情をもって接しているが

人間に対するそれとは

一線を画している。

 

 

生後半年を迎えるにあたって

避妊手術をすることにした。

 

子供が産めなくなる代わりに

手に入るメリットも多い。

 

子宮蓄膿症や卵巣腫瘍の

発症率を下げることが出来る。

 

これらの病気は死に至る病

っと言われているため、

メリットとしては十分である。

 

もちろんデメリットもある、そうだ。

 

我が家が選んだ動物病院は

自宅からほど近い場所にある

個人医院だ。

 

若い男性の医師が

自分の名前を病院名に

冠せなかったことには

好感が持てる。

 

飼い犬の健康診断の際に

避妊手術の必要性について

医師に相談してみた。

 

『お父さん、一般的にはね

生後6か月くらいに手術するのが

いいと言われてるの。

初潮が来る前がいいんですよ。』

 

医師はどこかのテニスプレーヤーの

ように中腰で私の前に立ち、

座っている私の顔を

下からのぞき込むように

語りだした。

 

 

 

『ただし、デメリットも

あるんです。』

 

 

 

両手を大きく広げ

右手の人差し指を

天井に向けて突き上げた。

 

『全身麻酔による後遺症、

ワクチンに対する免疫力の

低下などが挙げられます。』

 

 

ああ、人差し指を

突き上げたので

一つだけかと思ったら

二つ言うのね。

 

と、思ったが

口にはしない。

 

『だからお父さん、

あなたの判断でいいんです。』

 

ではお願いします、と言い

詳しい手術の日程などを

看護士さんと打ち合わせた。

 

 

打ち合わせが終わるころ

医師が再び現れ、こう言った。

 

『お父さん、手術が終わったら

この子の摘出した子宮と卵巣を

見せてあげますね』

 

と、こちらが望んでもないことを

中腰の姿勢で言い放った。

 

私は丁寧に辞退した、すると

 

『自分の子供が手術した

結果を見たいと思いませんか?

そうですか。無理にとは

言いませんがね』

 

と、これもまた

中腰の姿勢のまま

言われた。

 

先述した通り

私はこの犬を

可愛がっているが

我が子ほどではない。

 

『自分の子供が・・・』

 

と言われることに対して

違和感しか感じないが

そのことを指摘するのは

大人げない気がして

やめた。

 

 

もしかすると

この医師は本当に

私の女房がこの犬を

産んだ、もしくは

私が犬と結婚している

と思い込んでいる可能性が

ないとも限らない。

 

 

手術当日は

血液検査をし、

翌朝9時に迎えに来る旨を

確認した後、病院を後にした。

 

 

 

翌朝。

診察室に呼ばれた私の前に

中腰の姿勢のまま

待ち構えている医師は

暑苦しいほどの笑顔と大声で

朝の挨拶をした。

 

医師はその暑苦しい笑顔で

血小板がどうのこうの、

術後の経過がどうのこうの

と説明を加えた。

 

 

『いやあ、お父さん、

頑張ったのでたくさん

褒めてあげてください。』

 

ワシの子じゃないっちゅうに。

 

『ところで、お父さん。ほら。』

 

医師は目の前に置いたパレットを

指さした。

 

ペーパータオルが

かぶせてある。

 

 

『何ですか?これ。』

 

 

医師は暑苦しい笑顔を

こちらに向け、

中腰の姿勢のまま

両手を大きく広げ

説明してくれた。

 

 

『この子の子宮と

卵巣です!

 

ご覧になりますか?』

 

 

いや、

あの、

 

前回きちんと

お断りしましたよね?

 

私はグロテスクなやつが

苦手なんですよ。

 

出来るだけ

やんわりと

こちらのイライラを

隠して伝えてみた。

 

医師はすごく残念そうに

中腰の姿勢のまま頷いた。

 

納得はしてないけど

理解はした、そんな顔つきだった。

 

 

医師に変わり

看護士が私の前に座り

自宅へ戻ってからの

注意点を説明してくれた。

 

お礼を言って

診察室を後にしようとした私に

戻ってきた医師が

中腰の姿勢のまま

両手を広げてこう言った。

 

 

『ちょっと腰を痛めてまして

無様な姿ですみませんでした。』

 

 

あ、

それがあなたのスタイルかと

思ってましたよ。

 

てっきり

熱血のテニスプレイヤーに

影響を受けたもんだとばかり

思ってました。

 

 

診察室を出て

受付カウンターで

支払いを済ませた後、

ふと思い立って

スマホで調べてみた。

 

 

「松岡修造 名言」

 

 

検索結果の一つに

こんなものをみつけた。

 

 

君が次に叩く1回で、

壁は打ち破れるかも

しれないんだ!

 

 

どうりで

何度も何度も

摘出した臓物を

見せたがったのか。

 

 

はためいわくな

名言だな。

 

 

アツクルシイ

 

 

合掌

 

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