フーガはユーガ


およそ1年ぶりの伊坂幸太郎の作品は、
今までとは大きく違っていた。

何が?

それは私が老眼鏡をかけているということ
では、なく、エンターテインメントという
ジャンルの小説であるにもかかわらず
全体の3分の2ほどを暗い気持ちで
読み進めることになるからだ。

 

タイトルの「フーガとユーガ」は
双子の主人公、風我と優我のことを
指す。

物語は優我の語りで進んで行く。

レストランで向き合った高杉に
優我は自分の、そして双子の弟
風我について語る。

幼少のころから父親に
虐待を受けていたこと。
味方は誰もいなかったこと。
誕生日になると二人が
入れ替わる不思議な能力が
あること。
中学になって同じクラスに
いじめられているワタボコリ
という名の同級生がいたこと。

父親の暴力から逃れるため
アルバイトを始めたこと。

彼が語る自伝のところどころに
起きる事件というか出来事が
目を覆いたくなるような
ひどい話であったり
泣きたくなるような
ひどい話であったり
大きなため息が出るような
ひどい話であったり、した。

僕の場合は、たいてい
登場人物に思いを馳せ
そのうちの誰かになったつもりで、
つまりは、ひどく感情移入した
状態で読み進めるのだが
今回関しては誰にも
感情移入できずに終わった。

優我と風我を応援していた。

がんばれ!

と。

 

僕は実のところ
暴力は嫌いだ。

伊坂幸太郎も、ある作品で
こう書いていた。

「暴力は相手の自尊心を奪う」

僕もそう思う。
決して握った拳で相手を
叩くことだけが暴力では
ないと思う。

それは、相手に向けた態度や
言葉や仕草、それらすべてが
暴力となりうるのではないか?

伊坂の言葉を借りるならば

「相手の自尊心を奪うことが
すなはち暴力」だ。

物語の最初から優我の語りを
聞いている高杉は、途中で
相槌のような質問を投げて来る。
それすらも、暴力に思えるほど。

 

伊坂作品にしては珍しく
切なかった。

 

切ない作品だった。

 

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