肉体の衰えをハッキリと自覚しているにもかかわらず、心のどこかで「まだ自分は若い」と思っていた。
いや、厳密に言うと「若い」と思っていたのでなく「年老いてない」と思っていたのだ。
ところが、これは完全な勘違いで私は既にどうしようもなく年老いていたのだ。
同年代の会社の同僚が
「俺、軽く老眼なんだよねぇ。」
と言っていた。かつて若い頃は老眼なんておじいちゃんがなるもんだと思っていた。白いひげを蓄えた老人が鼻の先に小さなレンズのついた丸メガネをかけ、遠くを裸眼で近くを老眼鏡で、というイメージだ。
「ヤマシタさんはまだでしょ?」
そう言われ、当然だとばかりに胸を張り、さも「俺は君と違ってまだ若いんだ」と主張するそぶりすら見せようとする。
ところがハタと気付く。
違うぞ。
俺は若くない。 だって現にいま彼が言ったセリフ「軽く老眼」が「ハルクホーガン」に聞こえてたからね。
話の流れから推測しても、どう考えたってプロレスラーの話じゃないのに「ハルクホーガン」としか聞こえなかったからね。マディソンスクエアガーデンの奇跡も起きてないからね。その後の会話の流れで、どうにかこうにか「ああ、老眼か」って気付いたくらいだからね。
そんな出来事があったにもかかわらず、まだ性懲りもなく自分のことを若いと思っている自分がいるんだ。
そんなある日、とある飲み会で衝撃の事実に出くわしたんだ。 ああ、もう私はれっきとしたオッサンです、と認めざるを得ないような出来事だ。
そのとある飲み会で、私は同じ会社の似たような年恰好の方と同じテーブルだった。ぱっと見た感じで年上かどうかを推測する。 随分と落ち着き払った立ち居振る舞い。黒々としているがひょっとしたら白髪染めをしているのではないかという頭髪。肌の質感、ワイシャツのセンス、これらの情報を私の中で租借し、吟味し、たたき出した答えは「こいつ、俺より3つ上」だった。
初対面で年上だから、当然私も苦手な敬語を駆使して会話した。会話の内容で更に年齢を予測する。
「間違いない。2~3上だ。」
で、グジグジと悩んでいるのは性に合わないから、思い切って聞いてみた。
「おいくつなんですか?」
「はい。昭和47年生まれの44歳です。」
年下や~ん!
私は驚いた表情をしていたのだろう。見るに見かねた同僚が私にこう助言してくれた。
「ここにいる全員が迷うことなくヤマシタさんの方が年上だと思ってたよ。」
まじで~?
いや、だってだって、ほら俺の方が・・・・・
そうか。白髪も俺の方が多い。肌も俺の方が荒れている。そういえばさっきから俺は自分の酒しか作ってないが、この方は甲斐甲斐しく他の方の分まで酒を作っている。そして何より俺に対してすごく丁寧な言葉で接してくれている。
そうか。そうなのか。俺の方が年上なのか。っていうか、俺はもう若くないのか!年老いているのか~~~~~!
あまりの悲しい事実に私はその日、家に帰ってシャワーも浴びずに布団に入って泣いた。
次の日、あまりのオッサン臭さで目が覚めた。
アセマミレ オッサンノタイシュウ
合掌