645発目 佐野元春の話。


改札を抜けると強い風が吹いていた。

 

冬の冷気を含んだその風は、ボクの首筋をなでて行った。

 

コートの襟を立て、肩をすくめた。 両手をポケットに突っ込む。

 

駅前の広場は、それでも日当たりがよく過ごしやすいためか

割と多くの人が行き来している。

 

だが良く見るとその誰もがコートの襟を立てて

そこを通り過ぎていく。

 

「gee bap a du da

まだちょっとだけ眠たいぜ」

 

広場のスピーカーからから聞こえてきたのは佐野元春の

「モリスンは朝、空港で・・・」

だった。

 

この曲は「グッドバイから始めよう」のカップリングで

佐野元春初のベストアルバム「No Damage」に

収録されている曲だ。

 

ボクが中学に入ってすぐに発売されたアルバムだから

1983年のことだ。

 

そのちょうど一年前にボクは小学生でありながら

大瀧詠一の「ナイアガラトライアングルVOL2」という

アルバムと出会っていた。

 

「ナイアガラトライアングルVOL2」は大瀧詠一と

佐野元春、杉真理の3人がそれぞれの楽曲を

提供して作製されたアルバムだ。

 

そのアルバムを手にしたことで

佐野元春の存在を知ったボクは

その後、彼に傾倒していく。

 

お小遣いを貯め、それまでに発表されていた

BACK TO THE STREET や

HeartBeatというオリジナルアルバムを

購入していた。

 

「No Damage」を買った頃には

それまでに発表されていた佐野元春の

ほぼ全ての楽曲をコピーしていたほどだ。

 

彼が僕に与えた影響は音楽だけではなく

その彼の作る独特の歌詞の世界も

そうだった。

 

彼の歌詞の世界を現実の生活で

表現しようとすると、どうしようもなく

格好をつけないとならない。

 

中学1年の夏だった。

トイレで隠れてタバコを吸って

先生に見つかり、

「お前達はもう手遅れだ」と言われても

口笛で答えたりもした。

(Someday)

 

中学2年になっておしっこを漏らしたときも

気にしなかった。

 

どんなヤツでも一つくらいは

人に言えない秘密を持っているのさ。

(彼女はデリケート)

 

そしてあれから33年が経過し

ボクは今、横浜のとある駅で

冷たい風に吹かれながら

佐野元春になった気で

駅前の広場に立っていたんだ。

 

今晩誰かの車が来るまで

闇にくるまっているだけ

(アンジェリーナ)

 

ここまでで、ボクはほとんど

佐野元春になりきれていた、

と思っていた。

 

あと、足りないものは

ニューヨークに行ってないということくらいだ。

 

仕事もあるし家族もある。

 

どう考えてもニューヨークには

行けない。

 

 

 

でもいつかきっと、

いつかきっと、

真心がつかめるその日まで・・・

(someday)

 

ということで、今日のライナーノーツは

佐野元春の名曲

Rock’nRoll Night を聴きながら

お別れにしよう。

もし、まだ佐野元春を聴いたことが

ないという人がいたら

これをきっかけにしてくれれば

幸いだと思う。

 

キョウハ、ワライハ、ナシ。

 

合掌

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