こだわる【拘る】
どうでもいい(とらわれてはならない)問題を必要以上に気にする。
みんなにとっては取るに足らないどうでも良いことなのに、その人にとっては大変意義のある大事なことだったりするよな?
オレ自身にもそういう「拘り」の部分があることは、認めよう。
例えば、洋服一つを例にとって見てもそうだ。 なるべく長く着れるように、少々お値段が高くても質の良いものを買うようにしているし、スニーカーなんかは脱いだり履いたりが楽にできるように、必ずサイズを少し大きめのものを買うようにしている。 本来、オレの足のサイズは7インチなのだが、買うときは7ハーフインチを買う。 センチメートルなくてインチで表現するところもこだわりの一つだな。別にイキってるわけじゃないからね。
どうだい?
どうでもいいだろ?
必要以上に気にしてるだろ?
誰にだって一つや二つは必ずあるはずだよ、拘りが。 自分もそうだから理解できるし、許せるよ、そうゆうのって。
でもね。
でも、今日のあのおじさんの拘りには我慢ができなかったよ。
年末だから、取引先にカレンダー持ってご挨拶に廻ってるわけさ。 で、まあ、いてもいなくてもいいから、特別にアポを取ったりしないわけよ。 勝手に行ってカレンダーを置いて、「よろしくお伝えください」っつって満面の笑みで受付の女の子に愛想振りまいて、さささっとおいとましてさ。
年末だから、道路も混んでるわけよ。 ったく、どこに行くんだよ、こんな朝っぱらから!つって文句の一つも言いたくなるんだけど、そこはオレも大人だから我慢してる、ギリギリ。
そんでさ、信号待ちで鼻歌なんか歌ったりしてるんだよ。ラジオに合わせて。 ぜんぜんぜんせいから~、とかってさ。誰の歌かも知らんし、くっだらねえ歌だな、なんて思いながら、でもお前、口ずさんでるじゃねぇか!って自分で突っ込んだりしながらね。
事務所のラジオでも車のラジオでもひっきりなしにかかってるから覚えちゃったよ。 紅白に出るんだって? 知らんわ! 昨日の夜もNHKのヤツが来て、しつこいからさ、「ウチにはテレビなんて贅沢品は置いてねえよ。紅白?生まれてこのかた、観た事ねえよ!」って追い払ってやったよ。
ああ、話がずれたな。
でさ、アポなし訪問にも飽きてきてさ、ああ、誰かとおしゃべりしたい、って気持ちになるだろ? なるんだよ。 なぜならオレは口から生まれてきたからさ。 やかましわ!
で、意を決してアポ取りのために電話してみるわけだ。ぷるるるって。そしたらさ、すんなりアポ取れたりするんだよなぁ。 あれ?年末なのに、忙しくないの?って思うけど、まあおしゃべりできるからいいやっつって。
「じゃあ、13:30にお伺いします~」 ってウキウキしながら、電話切って時計見るとまだ11:30なわけ。
あちゃあ、昼飯ゆっくり食べても時間が余るなぁ。 まあいいか。 まずは昼飯だ、ってラーメンなんかチョイスしたもんだから、もう時間が余る余る。
もうあれだね。老後を一人で過ごすおじいさん並みに時間が余ったね。
しょうがねえから、喫茶店に寄ったんだ。 客が一人もいない古い喫茶店だよ。 いらっしゃいませも言わないようなオッサンがカウンターの向こうに立っててさ、しょうがねえからカウンターに座ったんだけど、暇だったんだろうね、オッサンがオレに話しかけてきたんだよ。
「ウチのコーヒーはさ、拘ってるんだよ」って。
で、飲んだら普通のコーヒーじゃない。 あれ?ってなってさ。
「分かるかな兄さん。 そのカップ。 英国王室でも使われてるヤツだよ。」
って、鼻の穴膨らませて自慢してくるわけ。 英国王室御用達って普通は紅茶じゃね?
「あ、そうそう。で、このスプーンね。新潟から取り寄せたカトラリーだよ。分かるかなぁ?」
だって。
なんだよ、カトラリーって? それでもオレが黙ってるから、最終兵器を出してきたよ。
「このカウンターはね、アフリカンチェリーの一枚ものだよ。すげえだろ?」
器がイギリスでスプーンが新潟で天板がアフリカって、もうさ、支離滅裂じゃねえか。
我慢できなくて最後にお金払うときに言ってやったよ。
「コーヒー豆に拘れ!」って。
ドウデモイイネ
合掌