597発目 ざわつくサウナ室の話。


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漫画が大好きな我が家の休日の過ごし方として、無料で大量の漫画が読める場所というのは大変重宝する。漫画喫茶やインターネットカフェではなく、スーパー銭湯がそれだ。

 

最近のスーパー銭湯は、ただ風呂に浸かるだけではなく、休憩室に置いてある大量の漫画をダラダラと読みながら時間をつぶし、何度も風呂に入るという楽しみ方が出来る。

 

息子のお目当てはワンピースやナルトなどの作品で、私と妻はキングダムがお目当てだ。 これらの作品は既に単行本が数十冊も刊行されているため、今更、全巻を買い揃えると言うのは予算的に無理だ。 でも、読みたい。 その場合、大好きな風呂にも入れてこれらの作品を無料で読むことが出来るスーパー銭湯は、ヤマシタ家にとってのパラダイスと言っても過言ではない。オアシスと言い換えても良い。

 

3連休の最終日、我が家は川崎にあるスーパー銭湯を目指した。 わざわざ自宅近くではなく、遠方にある川崎まで足を運ぶのには、ここの漫画の在庫が充実しているという理由からだ。

 

到着してまずは、汗をかいた身体を綺麗にするため浴場を目指す。 眼が悪い私は息子を「眼」代わりに浴場内をうろつく。

 

「おい、サウナはどっちだ?」

 

とか

 

「この温泉の効能を読んでくれ」

 

などだ。

 

息子は小3であるにもかかわらず、90度以下の温度のサウナなら3分は入れる。 私は5分の3セットをした後にゆったりと冷水に浸かるのが大好きだ。

 

その日も、私は洗髪した後に息子の先導に従いサウナ室を目指した。 サウナ室は広く、多少先客がいたとしてもゆったり過ごすことが出来るスペースがある。 私たち親子は入り口から一番遠い位置の一角に腰を下ろした。

 

振り返るとそこの上の段には見たくもないオッサンの股間がデ~ンと鎮座しているが、不幸中の幸いと言うべきか、私の視力だとそのような気色の悪い物体は見えない。室内には既に先客が10名ほどいたが気にならないというのは気分が良い。

 

そのとき、静寂に包まれたサウナ室内で息子の声だけが響いた。

 

「お父さん、さっき外にオッパイ丸出しの人がおったよ。」

 

「そんな訳はないだろう。ここは男湯だぞ。」

 

「でもおったよ。髪の毛が長くて色が白くてオッパイ丸出しの人。」

 

ガタガタと物音がし、先客の10名は一斉に外に出て行った。 なるほど、オッパイ丸出しの人を見に行ったのか。悲しいな、男の性って。

 

1分もしないうちに数人が戻ってきて、何も無かったようにまたデ~ンと座り始めた。

 

「お前、見間違いや無いんか?」

 

「いいや、じゃあ先に出てもう1回探してくるよ。」

 

しばらくして息子が戻ってきた。

 

「おったよ、お父さん。寝転がるお風呂に寝そべっとったよ。」

 

ガタガタガタ

 

再びサウナ室から人が消えた。

 

結果から言うと胸の膨らんだ男だった訳だが、どうして男ってのは「オッパイ」って聞くと冷静な判断力を失うのだろうか。 ちょっと考えれば男湯に単身真っ裸で乗り込んでくる女性なんていやしないのに。

 

風呂から上がり、妻と合流し食事が出来るスペースに行った。 私はサウナ室での出来事を妻に話した。

 

「男ってバカよね。」

 

その後は漫画を読んで過ごした。至福の時だった。 クーラーがガンガンに利いていた室内で身体が冷えた私は、もう一度風呂に向かった。 せっかくだからもう一度サウナに入ろうと思い立ち、サウナ室に足を向けた。メガネを外していたため、周囲の状況は良く見えなかったが、何とか勘でサウナ室にたどり着いた。

 

サウナ室には私と同じ年頃の男性が3人座っていた。

 

「さっき、隣にいたオヤジに聞いたんだけどさ、オッパイ丸出しの女が一人、男湯に紛れ込んでるらしいぜ」

 

「マジかよ!この温泉ってそんなサービスがあんのかよ!」

 

「ってゆうか頭おかしいんじゃねえのか?その女。」

 

 

何ということでしょう。

 

誰一人、疑ってないではないか。

 

男たちの願望が冷静な判断力を奪い、願望が現実を捻じ曲げた瞬間だった。

 

「あ、聞きました?どうやら女性が一人男湯に紛れ込んでるらしいですよ。」

 

男性の一人がうれしそうに私に話しかけてきた。

 

「ホントですか?」

 

「さっき、見たって人に聞いたんで間違いないですよ。びっくりですね。」

 

その話しを信じているあなたの方がビックリですよ。

 

オッパイ。

 

きっと世界を平和に導くのはオッパイなんだな。

 

フツカレンゾクオッパイノハナシ

 

合掌

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