『支店長、小林さんって地主なんですかね?』
助手席に座る私に部下が訪ねてきた。支店長とは私のニックネームだ。
『なんで?』
『いや、ほら名前が。 小さい林をたくさん持ってたのかと思って。』
なるほど、そうだな。平民に氏が与えられた時代、人々は自分が住んでいる場所にちなんだ名前をつけたと聞いたことがある。 じゃあ、私の祖先は山の下に住んでいたのか?
きっとそうだろう。
『私は前田だから田んぼの前に住んでたんです。』
は!
そうすると、疑問があるぞ。 田んぼの前と後ろはどうやって決めたのか?田中さんは分かる。中だから。田上さんは? 田んぼの上? いやそれよりもさっきの君の発言からすると、前田という姓は田んぼの前を所有していたことになるだろ? 住んでいた『場所』に、ちなんでいるのなら小林さんは小さな林の中に住んでいたのではないか?
いや、待て。 森と林の違いは何だ? 大林さんと小森さんではどちらが規模が大きいと思う?
そもそも森と林の違いって何だ?
調べてみよう。
まずは私の好きな辞書だ。
もり【森】
遠くから見ると濃い緑が盛り上がって見え、
近づいて見ると日のさすことが、ほとんど無い所
はやし【林】
一帯に(同種の)高木が枝を交わすようにたくさん生えており
一目で他と区別されるところ。
う~ん、ってことは平べったい所で木がたくさん生えてたら『林』。山や丘みたいに小高いところに木がたくさん生えてたら『森』ってことか。なんとなく漢字のイメージから勝手に森の方が林よりたくさん木が生えてるのかと思った。 違うんだな。
念のため私の嫌いなネットでの検索もしてみよう。
『林業の世界では人の手が加えられているのが林。勝手に生えてるのが森』
なんと! 辞書の意味とは全然違うではないか! どちらを信じるか? 勿論、私は辞書を信じる。 何しろ私の所有する辞書は三省堂の新明解国語辞典だ。 かの有名な金田一京助が監修してるんだぞ! 金田一先生! あなたを信じます。
ということで、小林さんは小さな林を所有していたのではなく、高木が枝を交わすようにたくさん生えているところに住んでいたんだよ。
君の疑問はコレで解消されたよ、前田君。 今度は君の番だ。
田んぼの前と後ろの見分け方を教えてくれ。
ブカノイクセイ
合掌