チヅルはその日の夜、
自宅で久々に父親と会話をした。
別に思春期だから父親を避けてる
とかそうゆうわけではなく、
単純に父親が忙しくてチヅルの
起きている時間に帰宅しないから
会話の機会がなかったのだ。
『チヅルは好きな人はいるのか?』
『ううん、まだそんな人おらんよ。』
『そうか。でもパパはチヅルが
選ぶ人がどんな人か興味があるよ。
出来れば器の大きな人がいいな。』
『器の大きな人ってどんな人?』
『そうだなぁ。どっしりと構えていて
物怖じせず、色々な人の助けに
なるような人だよ。』
『そんな人、おるかなぁ。』
チヅルはそう言いながら
クラスのメンバーを思い浮かべた。
良く知っている男子は3人だけ。
ヒデオは乱暴者だし、馬は恋愛とは
違うし、ヤマシタかなぁ。
夕食を終えたヤマシタは明日の準備に
余念がなかった。
机に向かい翌日の昼休みの
プランを練る。
珍しく机に向かう息子を見て
母親は熱でもあるのかと心配したが
ヤマシタはそんなことには気付かない。
まずノートにタイトルを書く。
『馬尾行計画』
メンバーはヒデオとチヅルと自分。
いや、まてよ。ヒデオがいたら
おっぱいチャンスが減るな。
よし。なんとかヒデオを排除しよう。
そして二人でまず運動場の端っこに行き
木陰にしゃがんで・・・・
翌日、寝不足のまま登校した。
クラスの面々は相変わらず
ヤマシタを無視している。
と、ガックンが話しかけてきた。
ガックンとは小学校のときに
同じクラスで良く一緒に遊んでいた。
周囲を気にしながらこっそりと
近寄ってきた。
『サトル、馬にかかわるのを
やめた方がいいぞ。キョウイチが
今日の昼休みにサトルを
呼び出してクラすっち言いよったぞ。』
ビクンと心臓が跳ね上がるような
気分になった。
やばいな。クラされることが?
違う。今日の昼休みはまずい。
念入りに練った計画があるんだ。
『ああ、それ今日やないと
いかんのかねぇ?』
とのんびりした口調で聞き返した。
『いや、そうゆう問題じゃないぞ。
キョウイチは本気ぞ。そして
その後、ヒデオとケリつけるって。』
そしてそそくさと去っていった。
そこから弁当の時間までは
上の空だった。
弁当を食べ終えるとキョウイチが
近寄ってきて
『サトル、ちっと体育館の裏に来い。』
と告げた。
ああ、とうとう来たか。と。
すると横からヒデオが
『なんや、サトルに用があるなら
俺が聞いちゃるわ。』
と助け舟を出した。
いいぞ、ヒデオ。
『おう。ほんならお前から
先にクラしちゃる。来い。』
そう言って二人は教室を出た。
ほう。
難なくヒデオを排除できたぞ。
チヅルは一人で弁当を
食べていた。
後ろの席を見ると馬はいない。
今日はヤマシタと馬の後を
つけようと言ってたが
もういないのでどうしようも
ないな、と思った。
ふと斜め後ろ、つまりヤマシタの
席の方からキョウイチの声がした。
なにやらヤマシタに向かって
物騒なことを言っている。
横からヒデオが助け舟を出し
やがてキョウイチと教室を
出て行った。
ヤマシタが弁当を食べ終わった
チヅルに話しかけてきた。
『じゃあ、馬を探しに行こうか?』
チヅルは驚いた。
自分を助けてくれたヒデオの
事が心配じゃないのか?
別に馬のことは今日じゃなくても
いいじゃないか、と。
ああ、パパが言っていた
器の大きい人はヤマシタじゃないな。
こいつちっちゃ。
ツヅク
合掌