364発目 正義の味方の話。


正義の味方

ススキノの一角で

人だかりができていた。

 

私も野次馬根性で近づく。

 

数人の男性が二人の女性を

囲んでいる。

 

男性たちは皆、一様に

暴力的な雰囲気をまとっている。

 

集まった周囲の野次馬に

 

『見世物じゃねぇぞコラ!』

 

と、唾を吐き掛けそうな

勢いだ。

 

明らかに若い女性二人が

その男性たちに因縁を

付けられている。

 

だが、見物人たちは

誰も助けようとはしない。

 

 

 

ふと、考えた。

 

もし、私が正義の味方なら。

 

小さいころに見たヒーローたち

のように、強かったら。

 

必殺技があるならば。

 

彼女たちを助けるのに。

この乱暴な男たちを蹴散らして

やるのに・・・・と。

 

 

じゃ、どんなヒーローがいい?

 

ゴレンジャーだとダメだ。

5人集まらないと成立しない。

 

しかも今日の私の格好は

ゴレンジャーにない色だ。

せめて青い服でも着てれば

アオレンジャーっぽくて

なんとかなったかもしれないのに。

 

グレーのストライプレンジャー!

 

しまらない。

 

じゃあ、仮面ライダーは?

 

だめだ。仮面ライダーの

種類が多すぎて選べない。

 

人はあれだな。

 

選択肢があまりに多いと

選べないものだな。

 

三択か四択が適している。

 

そういえば、テストなんかも

四択だもんな。

 

しかも今日はタクシーで

ここまで来たから、ライダーじゃ

ないしな。

 

仮面タクシーの乗客!

 

なんのことか分からんな。

 

 

 

ウルトラマンか?

 

ああ、それがいいな。

 

それだと集まった野次馬にも

分かりやすいだろう。

 

で?

 

必殺技は?

 

やっぱり。スペシウム光線か。

 

出るかな?

 

いやいや、

出るわけないやん。

仮に出たとしても

確実に相手を殺してしまうな。

 

そりゃそうか。

必殺って必ず殺すって

書くもんな。

 

人助けをして人殺しで

逮捕されるのもちょっとなぁ。

 

そういえば、ウルトラマンって

3分でケリをつけなければ

いかんやったな。

 

じゃ、チャチャチャっと

片づけるか?

 

いや、3分っちゃ結構すぐぞ。

 

ああ。それとあれだ。

ウルトラマンってしゃべらんしな。

自己紹介 出来んやん!

 

若い女の子はウルトラマン見て

『ウルトラマンだ!』って気が付く?

 

知らん人もおるよなぁ。

 

『何?あのつるっとした人?

サラリーマン?』

 

とか間違われても難儀やしなぁ。

 

ま、サラリーマンだから仕方ないか。

 

よし、じゃあ。あれにしよう。

ジャッキーチェン。

 

これだと若い世代にも

分かりやすいし。

 

酔拳とか蛇拳とか

見せどころ満載やん。

 

ちょっと笑いもほしいな。

 

旅行拳!!! とかやって、

1発殴るごとにマイルを

加算していくとか?

 

クーポン拳とか言って

1発殴る力を10%加減します。

とか?

 

加減じゃなくて還元やろ!

 

とか突っ込んでくれるかな?

 

周囲の野次馬が

『これ使ってください!』

とか言って図書券出してきてさ。

 

『これでとどめだ!

くらえ!図書拳!!』

 

~説明しよう。図書拳とは

1発殴られると500円相当分の

本に交換できるぞ。500円未満の

場合でもおつりは出ません、

ご注意ください~

 

 

 

 

などと考えていたら

周囲には誰もいなくなっていた。

 

ススキノにはただ、

寒くて冷たい風が

吹いていた。

 

 

サ、カエロ

 

合掌

 

 

 

 

 

 

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