361発目 ビデオデッキの話。


ビデオデッキ

ヨネシチが私に頼みごとを

してくるのは珍しいことだった。

 

その日の放課後、我が家の

ビデオデッキがVHSかベータかを

尋ねてきた。

 

もちろんVHSだよと答えると

心底ほっとしたようにこう言った。

 

『実は知り合いからスゴイと

評判のエロビデオを借りたんだ。

ところがウチはデッキがベータで

借りたビデオテープはVHSなんだ。』

 

つまり、観たいけど観られないとのこと。

 

10代の頃の私は今と変わらず

『エロ』と名のつくものは

大好きだったので二つ返事で

OKを出した。

 

母親が仕事から帰ってくるまでの

間なら大丈夫だと太鼓判も押した。

 

放課後、私の自宅へ例のビデオテープ

を持参したヨネシチと私は

リビングにあるテレビの前に

座り、そっとビデオデッキに

テープを挿入した。

 

どちらが主導権、つまり

リモコンを握るかを話し合い、

ヨネシチにゆだねる事にした。

 

映像が流れ始める。

 

万が一のことを考えて

音量は最小限に抑える。

 

10代の少年を興奮させるには

十分すぎるほどの映像が

流れ行く中、ヨネシチは

こまめにリモコンを操作し

一度見た画面を行ったり来たり

している。

 

『どうした?』

 

『いや、気になる場面があってさ。』

 

ウィ~ン、ガシャン。

ウィ~ン、ガシャン。

ウィ~ン、ガシャン。

 

何度も巻き戻しと再生を

繰り返していた。

 

『多分、今のどこかで

一瞬、モザイクがかかってなかった。』

 

何!!!?

 

それは大事だぞ。

 

早く見つけろよ!

 

ウィ~~~~ン。

 

『あれ?あれれ?』

 

リモコンが効かなくなった。

 

も~う。

 

私はリモコン用の電池を探す。

 

が、普段から何がどこに

置いてあるのかを把握してない

私は電池ですら戸惑う。

 

『早くしてくれ。』

 

テレビの画面には

素っ裸の女性の胸のアップが

映ったまま止まっている。

 

と、そのとき玄関が開く音が。

 

『やばい、母ちゃんが帰ってきた!』

 

『消せ、消せ。とりあえず

主電源を切れ!』

 

『ただいま~』

 

母親がリビングに入ってくるのと

ほぼ同時にテレビのスイッチを切った。

 

『あらぁ。ヨネシチ君いらっしゃい。』

 

『あ、おばちゃん。ハァハァ、

お邪魔してます。ハァハァ。』

 

『おお、おかえり。ハァハァ。』

 

『どしたんね?息切らして。』

 

『いや、二人で腕立て伏せ

やりよったんよ。』

 

『あ、じゃあ、オレもう

帰るね。』

 

『え?』

 

ヨネシチは驚くべきセリフを

吐いてその場から立ち去ろうとした。

 

『何ね、ゆっくりして行き。

オヤツもあるよ。』

 

母ちゃんが引き止める。

 

ナイス!母ちゃん。

 

この状態で帰られて

万が一見つかったら

困るのはこの俺だ。

 

母ちゃんが台所に

引っ込んだのを見て

ヨネシチに詰め寄る。

 

『お前、何で帰ろうとするんか!

こすい(ずるい)ぞ!』

 

『いや、流石に他所んちで

持参したエロビデオ見つかったら

恥ずかしいやろ?』

 

『アホか!自宅のデッキが

ベータの時点で十分恥ずかしいわ!』

 

『あ!お前!ベータを

馬鹿にするんか!』

 

『ちょっと待て。

今はそんなことでケンカ

しとる場合じゃないぞ。

どうするんか?このテープ。』

 

『無理やりほじくり出してみる?』

 

『でもそしたら、お前が返すとき

困るやろうもん。テープが

壊れるぞ。』

 

『そっか。』

 

しばらく二人で考えたが妙案は

浮かばなかった。

 

そうこうしていると母親が

おやつもってリビングに

現れた。

 

『ヨネシチ君のお母さんと

お姉ちゃんは元気ね?』

 

『あ、はあ。おかげさまで。』

 

『お姉ちゃんは、もうあれやないん?

結婚するんやないん?』

 

『ああ、そうですね。

多分、来年ぐらいに・・・

 

ああああああ!!!!!!』

 

『どした?大きい声出して。

たまがる(驚く)やんか!』

 

『いや、後で。』

 

しばらくは雑談をしていた。

 

と、玄関のインタホンが鳴った。

 

は~いと母親が出て行く。

 

ヨネシチが私のほうに

擦り寄ってきて耳元で

囁いた。

 

『お前の母ちゃんの一言で

いいことを思いついた。

ビデオデッキが壊れとる事にしょうや。

オレの姉ちゃんの彼氏が

ベスト電器に勤めとるんよ。

ほんで、ココから電話して

ただでやってもらおう。』

 

『うまく行くんか?』

 

『大丈夫。玄関のところで

こっそり事情を説明するけ。』

 

母親がリビングに戻ってきた。

私は母親に話しかける。

 

『なんかさ。ヨネシチに借りた

ビデオがデッキに挟まって

取れんくなったんよね。

ヨネシチの姉ちゃんの彼氏が

ベスト電器におるらしいけ

来てもらおうかと思うんやけど。』

 

『あら、そうね。ヨネシチ君、

いいと?』

 

『ああ、いいすよ。

じゃ、ちょっと電話借ります。』

 

 

 

1時間後。

 

 

 

ピンポーン。

 

『あ、おばちゃん、多分

姉ちゃんの彼氏です。

オレが出ます。』

 

ヨネシチと姉ちゃんの彼氏が

リビングに入ってきた。

 

彼氏は道具箱をもっている。

 

おそらく事情は説明を聞いて

把握しているはずだ。

 

兄ちゃん、ヘタ打つなよ。

 

私は心の中で祈る。

 

『ああ、大丈夫ですね。

簡単や、これやったら

5分で終わる。』

 

お兄様~~!

頼もしいお言葉~!

 

それからの作業は早かった。

 

まるで神業のように、

ドライバー1本で中につまった

ビデオテープを取り出した。

 

母親が横から感心したように

口を出す。

 

『へえ、すごいねぇ。

何が挟まっとったん?』

 

『ああ、これです。

実録女子大生乱交パーティです。』

 

 

アホオオオオオォォォォォォォl!

 

合掌

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