350発目 慇懃無礼な話。


コムサ

慇懃無礼とはどういう意味か?

 

丁寧すぎて逆に失礼。

という意味だ。

 

丁寧すぎる丁寧語は

不快な気持ちにさせる。

それどころか、意味さえが

分からなくなる。

 

息子には4歳からピアノを

習わせている。

もうすぐ3年になる。

私自身もピアノを始めて

ちょうど2年だ。

 

息子とともに成長しようと

毎日練習している。

 

その息子が今度の日曜日に

発表会があるとのことだ。

 

発表会では課題曲を決め

3か月くらい前から練習し

ステージ上で演奏する。

 

彼にとっては初めての

ステージで、しかも

初めて他人の前で演奏する。

 

おそらくその日の出来不出来で

彼の音楽人生が決まるだろう。

 

きっと将来、プロの

ミュージシャンになった時に

こう聞かれるんだ。

 

『初めてのステージはいつですか?』

 

と。

 

だから。

 

その一生の思い出になる

ステージのために衣装を

揃えたんだ。

 

とくに新しく購入したりは

しない。七五三の時の

衣装などを上手に組み合わせた。

 

ところがやはり靴だけは

どうしようもない。

 

小学生の足の成長は

恐ろしく速い。

 

だから、靴だけは買おう。

 

ということになり、

とあるブランドのお店へ向かった。

 

5人のキツネが始めたという

あの全国展開している有名な

ショップだ。

 

陳列されている靴を

見ていると店員が近づいてきた。

 

『靴をお探しですか?』

 

『はい。そうです。

子供用の靴を。』

 

『オサイズお出ししましょうか?』

 

は?

 

”オサイズ”って何だろう?

 

靴の種類かな?

 

『え?なんて?』

 

私は聞き間違ったかと

思い、聞き返した。

 

『オサイズです。お出ししましょうか?』

 

ああ、やっぱりオサイズって

言ってる。

お出ししましょうか?って

いったい何が出てくるのか?

興味はあったが時間がない。

 

『オサイズって何ですか?』

 

店員はちょっと顔を赤くし

『サイズの事です。

すみません。』

 

さあ、ここで私の本性が

発揮される。

 

『サイズに「お」をつけたのか?

誰に習った?

そもそも、サイズを出すという

のはどういうことだ?

出してくるのは靴だろうが!』

 

こう言うつもりだった。

 

だが、危険を察した奥様の

遠くから寄越してくる

刺さるような視線と

家族連れだという状況、

この後の予定を鑑みて

ぐっとこらえた。

 

でもどうしても一言

一言だけでいいんだ、

文句を言わせてくれ。

 

私は会計の時の

ほんのちょっとのスキをついて

店員の男にこう言った。

 

『慇懃無礼って分かるかい?』

 

店員の男は静かに

首を振り、

『すみません、

分かりかねます。』

と答えた。

 

その日本語もおかしいけどね。

 

『君の事だよ。』

と言った私をひきつった

笑顔で見ていた。

 

店を出るときに振り返ったら、

店員はレジの陰に隠れて

スマートホンをいじってた。

 

きっと慇懃無礼を調べてるのだろう。

 

ッタク、サイキンノワカイヤツハ。

 

合掌

 

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