287発目 『ウソ~ん』って言いたくなる話。第1話


二股

自動車の免許を取るために

教習所に通い出して2週間が

過ぎようとしていた。

 

周囲には知り合いは一人もおらず

かといって教官はオッサンばかりで

面白くない。

免許を取るって行為がこんなにも

退屈な作業だとは思わなかった。

 

でも、次の仮免許への試験を

合格した時に学科の方が遅れていたら

路上教習に出れない。

 

仕方なく更に退屈な学科の授業を

受けることにした。

 

約1時間の授業の間、僕はずっと

女の子の事を考えていた。

 

数週間前から付き合いだした女の子だ。

 

とても美人で色白で、僕と同い年なのに

すでに働いていてお金もたくさん持っている。

仕事の内容は確か看護婦だったかな?

どこの病院かは聞いたけど忘れた。

 

友人の通っていた英会話教室に

来ていた子で、僕が友人を迎えに行くことで

顔見知りになった。

 

その頃の僕は

『愛の意味が分からない』

と哲学的なことをほざくような

ガキだったが、でもそれは本音で

『ねえ、私の事、愛してる?』

と聞かれても

『さあ。』

と首をひねるしかなかった。

 

本当に意味が分からなかったんだ。

 

じゃあ、なんで彼女と

付き合っているかと言うと

単純に彼女の事が他の女の子よりも

『好き』ということと、彼女と

一緒にいる時間が楽しいという

二点だった。

それで十分じゃないのか?とさえ

思っていた。

 

ただ、その時の僕はまだ19か20歳で

女の子との出会いも少ないから

もっと好みの子が現れたら

すぐにそちらに乗り換えていくだろう、

ということは容易に想像がついたし

実際にそうしていた。

 

だってしょうがじないじゃない♪

 

という歌が大好きだったことからも

僕がどれくらい開き直っていたか

分かってもらえるだろう。

 

学科の授業が終わり

教室を出ようとする僕と

出入り口のところですれ違ったのは

宮沢りえによく似た女の子だった。

 

彼女を色に例えるとおそらく

ほとんどの男子が

『透明』

と答えるだろう。

 

そこにいた男性のほとんどが

彼女に見惚れていた。

 

僕はと言えば、さっきまで

自分の彼女の事を考えていたくせに

スパッと頭の中を切り替えて

透明の女の子に近づく方法を

考え始めていた。

 

数日後には、教習所で彼女を見つけると

待合所でもなるべく隣に座るように

努力した。

ところが話しかけることもできないまま

僕は卒業検定に合格し、

教習所に来る理由がなくなった。

 

教習所最後の日に、卒業検定の

合格書をもらい、とぼとぼと

エントランスを出ようとしたときに

送迎のバスが入ってきた。

 

バスからは透明の女の子が降りてきた。

 

ああ、これは最後のチャンスだなと

思っていたら、彼女の方から

僕に近づいてきた。

 

ジジツハショウセツヨリキナリ。

 

合掌

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