241発目 誰だお前という話。~調査~


ライナーノーツ

オワリは入居申込書を

じっと見つめていた。

身分証明書のコピーと

見比べるがおかしなところは

見つからなかった。

住民票をみると3年前の夏に

札幌に引っ越してきている。

札幌に来る前の住所は確かに

東京だった。

それより以前の情報はない。

生年月日も確かにムライの

同級生だ。間違いない。

 

審査部からメールが届いていた。

入居審査はOKだということだ。

両親は高齢なので保証人は

立てず保証会社を利用するとのこと

だった。信販系の審査もOKだった。

お金に関する事故はないということか。

 

最近は賃貸物件を借りるとき、

個人の保証人をたてることは

しない傾向にある。

管理会社も保証会社を利用する

ことを薦める。なぜなら

入居審査の際にCICという

調査機関の情報を閲覧するのだ。

これは貸金業として登録している

会社のみが閲覧を許され

過去に割賦などで延滞や

未払いなどの事故を起こした人は

ここに登録されている。

 

部屋を貸す際にもっとも気にするのが

『家賃が払えるかどうか』だ。

 

ユイはこの審査にも通り

人物的には何も問題がないという

結論が出た。

しかし長年、この商売に携わる

オワリの勘が『この女は何か隠している』

と警鐘を鳴らしている。

 

じつは管理会社の担当の勘というのは

馬鹿に出来ない。

経験からくる”におい”というか

”雰囲気”で後になって

『やっぱり断っておけば良かった』

ということは少なからずある。

 

今回は事情が違うので

本人に入居審査合格の連絡を

することにした。

しかし、オワリは独自で

彼女について調査しようと

決めた。

 

現住所である札幌市中央区の

マンションに足を運んだオワリは

ユイが住むマンションの管理会社に

電話をかけた。

仕事上付き合いのある会社だ。

本来、個人情報保護法の関係で

入居者の個人情報は知ることは

出来ないが、方法がないわけではない。

 

電話に出た管理会社の担当に

家主の連絡先を聞いた。

このあたりに物件をたくさん持つ

大家さんで有名な方だったので

自宅の場所も知っていた。

面識もある。

オワリは早速、その家主を訪ねた。

ちょうど在宅していた家主は

オワリの顔をみて、少し考える顔つき

をしたが、思い当たったのか

『あら、久しぶりだね』と

笑顔で迎えてくれた。

 

『ご無沙汰してます。

3年ぶりくらいでしょうか?

その節はお世話になりました。』

通り一遍の挨拶を済ませたオワリは

訪問の目的を家主に告げた。

『ということで、こちら入居するときの

申込書には現住所がどこって

記載されてたか知りたいんです。』

と、知りたい理由は伏せて話した。

家主はちょっと待ってと家の奥に

引っ込み、しばらくして

帳面を持って現れた。

『ウチに入居する前の住所は

東京だねぇ。

そうそう思い出した。

引越しのときに挨拶に来て

えらい美人が来たもんだ

と女房と話してたんだ。』

『ご両親は引き続きここに

お住まいになるんですかね?』

『いいや、彼女は単身での入居だよ。

そうか、今度はオワリさんのところの

物件に引っ越すのか。

一人暮らしだと広すぎるからね。

ウチは3LDKだから。』

 

オワリはお礼を言って辞去した。

車の中で考える。

ユイがムライに話した内容には

嘘がある。

もう少し、調べてみよう。

オワリは完全に自分が

探偵になったつもりでいた。

 

ユイにはじめてあったときに

ユイと一緒に飲んでいた

友達と言う女の子の連絡先を

オワリは聞いていた。

その子にメールをする。

今晩暇なら会えないかな?

メールの返信はすぐにあった。

『19時くらいならOKよ』

オワリはとりあえず一人で

ユイの友達に会うことにした。

 

仕事を終えユイの友達との

待ち合わせ場所に向かうオワリの

携帯電話が鳴った。

表示を見るとユイだった。

メールだ。

車を停めメールを確認する。

『エリちゃんと一緒に

私も行っていい?

ムライさんも呼んでくれる?』

 

ああ、これはまずいぞ。

どうしよう。

オワリ探偵の調査は

早くも暗礁に乗り上げた。

 

マダマダツヅク

 

合掌

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