その日は仕事も休みで
かといって一緒に過ごす友人は
誰も都合がつかない。そんな寂しい休日だった。
ふと正面から4人の女性が歩いてきた。
私の進行方向から歩道橋いっぱいに
広がって歩いてきた。
ああ、嫌だな、邪魔だな。
そう思ったんだが、4人のうちの一人が
スッと脇に避けた。
それに気づいた他の3人も
スッと脇に避けた。二人ずつ左右に。
私は気恥ずかしいので顔を下げて
会釈とも中腰ともつかない
格好で女性4人の列をくぐるように
すり抜けようとした。
女性のうちの一人がひときわ大きな声で
『サトルくん!』
と言った。
振り返るとその女性が
『久しぶり』と腰のところで
手を振っている。
『何でこんなところで会うんだろう?
東京へはいつから来てるの?』
私は正直に答える。
『23の時だから、もう丸3年だね。』
『そっか。結婚は?』
『してる』
『え~、そうなんだ。子供は?』
『いない』
『・・・・・』
それ以上、質問は無いと判断した私は、
じゃあ、と右手を上げた。
彼女は先ほどよりもやや高い位置で
私と同じように右手を上げた。
私はくるりと彼女に背を向け
歩き出そうとした。
話しかけてきた彼女の友人の一人が
ねえ、今の人 誰?と聞いた。
彼女は『元彼』と答えた。
元彼。この言葉は辞書を引かなくとも
知っている。
言葉は知っている。
知っているのは言葉だけだ。
人はあまりにも驚いたときって
少し、ほんの少しだがオシッコが出るんだな。
私は彼女の事を一切知らないと思ってる。
本当に街ですれ違っただけの女だと
思っている。元彼?はあ?
名前も顔も知らねぇよ。
いや、でも『サトル君』って言ってたな。
知り合いか?いやいや、元彼?
ええええ?
なんだよ。驚かすなよ。
パンツが濡れたじゃないかぁ。
誰だよお前!
こんな事って
アルンデスネ
合掌