『カラオケ一緒に行きましょう』
このお嬢様方の一言で
二次会開催が決まった。
コージはもちろん
郷ひろみを歌えるということで
気分は最高潮だ。
ここまで特に波乱なく
来ているが私の不安は
まだぬぐえてない。
福岡市内を東西に走る
幹線道路がある。
通称『昭和通』だ。
天神新天町から親不孝通りに
向かうときに横切る大通りだ。
ちなみに親不孝通りとは
通りの突き当たりに
以前、予備校があり
浪人生が夜遊びを
するからということで
この名前になったが
現在は 親富孝 と
字を変えている。
昭和通の交差点で
信号待ちをする、
ヤクザを含む20歳の
青年たちと短大生のお嬢様方。
異色の取り合わせは
でもそれを感じさせないくらい
和気藹々だった。
そのとき、西側から
つまり我々の左側から
暴走族がやってきた。
ワンワンと轟音を撒き散らす。
短大生のお嬢さんの一人が
『いやあね、迷惑だわ』
とつぶやいた。
自称 教師を目指すコージの
正義感がみるみるうちに
膨らんで、破裂寸前の
風船のようになった事に
気がついたのは男性陣だけ
だった。
コージの表情が変わった。
『ですよね?
教師を目指す僕としては
放って置けません。
注意してきます。』
『でもコージさん、
危ないですよ』
『大丈夫!ほら、
僕はこんな見てくれだから
ヤクザに見えなくもないでしょ?』
あぜん【唖然】
あきれて言葉が出ない様子
『お嬢さんたちは
危ないので先にカラオケ屋に
行っておいてください。』
そういうとコージは
持っていたバッグを私に
渡すと、もう片方の手に
持っていた缶コーヒーを
暴走族めがけて投げた。
爆音が静まる。
あたりを見回した暴走族が
『誰だ!投げたのは?』
と叫び声をあげる。
ハルヤンとシゲは
お嬢様をつれて避難する。
お嬢様方がいなくなったのを
見計らったコージは
例の蟹股でのっしのっしと
暴走族に近づき、
『俺が投げたんや。
何か文句あるとや!』
言うが早いか、一番近くにいた
少年のほっぺたをビンタした。
暴走族の少年たちは
突如現れた、どう見ても
ヤクザの人に、恐れ
慄いた。
しかも横にいるのが
ちょっとシュッとした
大学生風の大学生だから
彼らの混乱は容易に
想像がつく。
まあ、それは私のことだが。
コージは全員をバイクから
下ろさせて、歩道に正座させると
全員をビンタして回り
最後にこう付け加えた
『お前たちが更正するまで
俺は注意し続ける。
こんなことに夢中になるより
もっと違うことに情熱を
燃やせ』
あきれる【呆れる】
予想外(常識外れ)の事態に
出会って対処の方法や
対応すべき言葉を失う
どうやらコージは
本気で教師を目指すキャラに
なりきっているようだ。
『あのう、本職の方では?』
少年のその一言で
我に返ったコージは
気恥ずかしそうに
『二度と暴走行為をするな。』
と言い残し、立ち去ろうとした。
狐につままれたような顔を
した少年たちは我々が
立ち去った後も、しばらく
道端に正座していた。
何が起こったのか
理解できないでいたのだろう。
その後、二次会のカラオケで
盛り上がり、再会を約束した
私達は本来の仕事に戻り
短大生たちは本来の学業に
戻ったがコージだけは違った。
コージは人に教えるという
ことの尊さに気づき
人から認められることの
快感を覚えた。
私はコージに人間の
5段階の欲求について
話をした。
それを聞いたコージは
私に真剣なまなざしで
『サトル、今からでも
教師を目指せるかな』
と聞いてきた。
私は優しく
『目指すことは出来るが
教師にはなれないぞ。
あきらめろ。』
と教え諭した。
数ヵ月後、私のアパートに
遊びに来たコージは
相変わらずジャージ姿だったが
背中に刺繍を入れていた。
『国士舘大学空手部』と。
アキラメテナカッタノネ
合掌