658発目 陰口を言われる話。


気になる女性に対する男性のとる態度は大きく分けて二つに分かれる。 一つは、相手から嫌われないようにしようと、紳士な振る舞いで接し、レディーファーストや荷物を持ってあげるなどの行動でポイントを稼ごうとする。

言葉遣いも紳士然としており、決して女性に対して「お前」とは言わない。もちろん呼び捨てにもせず、基本的に女性の話にきちんと耳を傾ける。そうすることで更にポイントを稼ごうとする。

 

彼らのほとんどは「できれば毎週火曜日はポイント3倍」とかにしてほしいと願っている。このパターンを優しさタイプと呼ぼう。

 

もう一つは、これとは真逆の態度を取る場合だ。心理的には他の男性と一線を画すことで相手の記憶に自分のことを深く刻もうとする行為で、相手に対しても初対面のその日から下の名前で呼び捨てにしたり「お前」呼ばわりしたりする。

 

この様な男性はあまり好かれないのではないか?という疑問も湧くが、ごく稀にこういう男性のことを「積極的だし、グイグイ引っ張ってくれそう」と勘違いするおバカ女子もいるので、世の中ってよく出来てるなぁと思う。

 

いずれにしても、この「小学生が好きな子の嫌がることをする」行為に似たことを大人になってもやり続けている人種は、それなりのキャリアを積んだことで、絶妙なバランス感覚を身に付けていることは間違いない。つまり「いやぁだ。なんだか粗野な人ねぇ。馴れ馴れしいし。」と思われないギリギリのラインを知っているのだ。こちらのパターンは野蛮人タイプと呼ぼう。

 

とはいえ、大きく分けてこの2種類と言ってるが、このどちらにも当てはまらない男性が現れたとしよう。もしくは優しさタイプと野蛮人タイプのどちらのパターンも兼ね備えている男性。その場合の男性は簡単だ。おそらくそいつは、

 

『ポケットに入りきらないほどの下心』 のみ

 

を持って近づいてきている。間違いない。

 

だから、彼らの欲求を満たせる女性じゃないと分かった瞬間、先ほどまでの笑顔が嘘のように凍てついた表情になり、そのまま口数も少なくなる。

 

まるでガス欠の車のように。

 

まるで充電のなくなった携帯電話のように。

 

彼らのことを下半身タイプと呼ぼう。

 

金曜日の地下鉄ブルーラインは夜の11時を過ぎても乗客は多かった。それもそのはず、その日は大半の会社が給料日だからだ。それに加えて、年度末のこの時期は異動の内示も出ているのだろう。送別会と思しき会社員達で街の居酒屋は埋め尽くされていた。

 

それらの酔客が終電を逃すまいと、一気に地下に降りてきたため、ホームは混迷を極めていた。

 

電車を待つ列の最前に立っていた私は、やって来たあざみ野行きの最終列車に運よく座ることが出来た。

 

私の前でつり革を持つ二人は、一人はその会社の管理職で45~46歳に見える。隣に立つ女性は二人の会話から推察するとその男の勤める会社に派遣社員として配属されてきたばかりのようだ。

 

「どうだった、職場の雰囲気は?やっていけそう?」

 

「ええ。皆さん良い人ばかりで、ほっとしました。」

 

「ま、その中でも俺が一番優しいんだけどね。」

 

「きゃはは。課長ってホントにユニークな方ですね。」

 

ということは、この子の歓迎会だったのかな? 二人の顔を見ると、女性の方がかなり酔っているように見えた。

 

課長と呼ばれた男は、職場の上司であるからだろうか?とても紳士然とした態度だった。そう。つまり優しさタイプだ。

 

「課長はどこまで乗るんですか?」

 

「ああ、俺は終点のあざみ野まで。そこで乗り換えて鷺宮までだよ。」

 

「私はセンター北で乗り換えて北山田なんですけど、そこから結構歩くんですよ~。」

 

「あ、じゃあさ。俺も一緒にセンター北で乗り換えてタクシーで送ろうか?」

 

お。

 

攻めたな。

 

課長さん、あんたもあれかい?ポケットの中には下心が詰まってんのかい?

 

「あ、でも。彼氏が迎えに来てくれてるんで大丈夫です~。」

 

撃沈。

 

電車のアナウンスが三ツ沢上町に着くことを知らせている。 つまり、この二人はあと8駅も一緒にいることになる。

 

「そういえば、課長、新横浜においしいイタリアンがあるの知ってます?」

 

「あ、ああ。 ふうん。」

 

「なんか今日の歓迎会で野島さんたちから誘われちゃって、行くことになったんです。」

 

「あ、ふうん。」

 

出ましたね。下半身タイプ。

 

「楽しみ~」

 

「・・・・・」

 

 

あら、とうとう無言になっちゃった。

 

彼女、センター北で降りるとき、きちんと課長に対してお礼を言っていた。 「どうもありがとうございます。おやすみなさい。」って。

 

礼儀正しい良い子ではないか。なのに課長ときたら振られた腹いせなのか、その時でさえ「ああ、うん。」って生返事だ。 ったく、男らしくないなぁ。

 

ああ、そうだ、私もこの駅で降りるんだった。

 

急いで電車を降り、エスカレーターに乗り込むと、私の目の前で彼女が電話をしていた。

 

「マジマジ、オッサンからタクシーで送るって言われちゃってさ~。セクハラじゃんって。もちろん断ったわよ!彼氏が迎えに来るっつったらさ、それからあからさまに無言になっちゃってさ。小学生かっつうの」

 

世の中の男性陣よ。

 

振られても男らしく振舞おうぞ。

 

カゲグチヲイワレチャウカラ

 

合掌

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