661発目 東京の話。


とにかく、我々地方出身者にとって、眩しいほどの輝きを常に放ち続ける、憧れ中の憧れ。それは「東京」だ。

 

いやいや、俺はずっと地元だし、東京に対して憧れなんかねぇよ!という人も少なからずいる。それは私も認識している。

 

しかし、そうではなく、大まかな世の中の流れが東京を中心にしていることを認めてしまっている、ということも含めて、それは「憧れ」なのだと思う。 おそらく、日本中のどこを探しても「日本の中心は東京」という答え以外を出してくる人はいないだろう。

 

それが証拠に、東京ディズニーランドは千葉県にあるにもかかわらず、「東京」という冠をかぶっているじゃないか。大勢の大人たちが会議室に集まって、

 

「で、名前ですが、どうしましょうか?一応、候補を列挙しましたのでお手元の資料をご確認ください。」

 

「ああ、この1番の千葉ディズニーランドは却下でしょ?イメージが悪すぎる。」

 

「かといってこの2番の幕張ディズニーランドもいただけませんね。なにしろ、このプロジェクトは日本中からの来場客を想定してるのですから。」

 

「なるほど。確かに千葉市民以外が幕張を知っているとは思えませんね。では、2番は却下、と。」

 

「この3番の日本ディズニーランドは、ちょっとふざけ過ぎじゃありませんか?」

 

「ああ、これは一応、ですよ。一応検討しましたよ、っていうポーズですよ。」

 

「ポーズって誰に対する、ですか?」

 

「まあ、そのう、本国に対してというか?」

 

「まあまあ、斉藤さんもそう声を荒げなくたって。日本ディズニーランド、いいじゃありませんか!これに票を入れる人なんていないんですから。」

 

「では、必然的に残ったこれになりますか・・・」

 

「ですね。満場一致ということでよろしいですか?」

 

「「「 はい。」」」

 

「それでは、施設名は東京ディズニーランドに決定します。」

 

こういった会議が繰り広げられてるんだと思うのは私だけじゃないはずだ。

 

 

 

小学校の時に東京かくれんぼという遊びがあった。誰が誰から教わった遊びか知らないが、とにかくそういうネーミングだった。

 

ルールは地面に円を描き、それを放射状に区切った中に「図書館」とか「職員室」とか書いて鬼が石を投げる。石が止まった場所まで鬼が行って帰って来るまでに隠れる、という簡単なものだ。

 

東京の小学生は全員がこの方式でかくれんぼしていると、疑いもしなかった。なぜなら、「東京」って名づけられてるからだ。小学生の頃の我々にとって東京とは、すなわちどこかにあるユートピア、みたいなものだった。そこに行けばどんな夢も叶うと言われている、誰もが皆、行きたがる遥かな世界~、だ。

 

そんな、小学生の我々の常識を簡単に覆す男が現れたのは、4年生の夏休み明けだった。

 

「じゃあ、みんなに紹介するわね。東京の小学校から転校してきた青本君よ。みんな仲良くしてあげて」

 

先生に紹介された青本は早速全員からちやほやされた。青本君は白のニットのベストに紺色の半ズボン、そしてランドセルもちょっと青味がかった奴だった。

 

「すげえ、東京モンは違うのう。毛糸のチョッキ着とるやん、まだ暑いのに。ほんで、ありゃ何や?ランドセルが黒じゃないのとか東京にしか売りよらんやろうも?」

 

小倉では手に入らない代物が売買されている、それが東京だ!暑い日にチョッキを着る、それが東京だ!

 

そして迎えた昼休み。我々は恥ずかしげもなく東京出身の東京からやって来た青本君に、一緒に東京かくれんぼをやろう、と声をかけたのだ。

 

ああ、きっと、ロビンソンクルーソーが大陸で初めて会った現地人の言葉が分からなかった時、こんな表情をしたんだろうなぁ。

 

我々は青本君が理解できてないのが方言のせいだと思い、極力丁寧にゆっくりと言ってみた。

 

「東京かくれんぼ」

 

何それ?ルールを教えて! と無邪気にはしゃぐ青本君の表情は決して我々を馬鹿にしたものではなかった。でも我々にはその無邪気さが返って心のささくれを大きくした。

 

「東京はこんなかくれんぼしよろうが?」

 

「ううん?初めて聞いたよ。どんな風にやんの?」

 

「おい、お前とぼけんなよ?東京から来たんやろうが?」

 

マサキが我慢できずに青本に絡みついた。マサキの剣幕になぜ怒られてるのかが理解できない青本君は戸惑った。私は冷静に判断し、結論を導き出した。

 

「マサキちょっと待て。青本君は本当に知らんのやと思うわ。」

 

「どしたんかサトル。今日はえらいカンロクやのう。」

 

「ええけ、俺にまかしとけや。」

 

私は青本君を安心させるために優しく笑顔で話しかけた。

 

「青本君のおった東京ではかくれんぼは普通なんやね?」

 

「う、うん。そうだよ・・」

 

「ほんならさ、東京ホットケーキは?それはあるやろ?」

 

東京ホットケーキとは小倉祇園祭や門司港花火大会などの縁日に行くと必ず出ている店の一つだ。もちろん、飛ぶように売れる。さすが東京のお菓子は垢抜けとうね、と褒め言葉も出る。

 

サトル、さすがや!東京ホットケーキを出してくるかぁ。

 

全員から感嘆の声が上がった。正直言って私はこの一言で勝利を手にしたと確信していた。だからそのあとに続く青本君の言葉を簡単には受け入れられなかった。

 

「ううん。分かんない!」

 

うおぉぉぉぉぉぉぉ!

 

我々が信じていた東京は一体、どこの東京だったんだぁ!

 

銘菓ひよこは東京土産じゃなくて小倉銘菓なんぞ~!

 

トリミダシテシマイマシタ

 

合掌

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