543発目 解決しない話。


ライナーノーツ

 ボキャブラリーが豊富だと、賢そうに見えるだろ?

 

でもさ。

 

ボキャブラリーとしては持ってるんだけど、絶対、死ぬまで使わないだろうなって言葉ってあるよな?って話。

 

例えばさ。

 

「しゃらくせえ」

 

使う?これ? どこで使う?どんな場面で? 語源も諸説あるみたいだしさ。意味は?辞書によるとこうある。

 

しゃらくさい【形容詞】
[口頭]なまいきだ。洒落臭い、とも書く。

 

ああ、そうか。なんか使えそうだな。でも使わないな。

 

 

と、思ってた。

 

 

 

 

羽田空港第1ターミナルの待合ロビーは修学旅行生と思しき高校生で溢れかえっていた。17番ゲートは札幌行きのJALのジェット機が待ち構えている。出発時刻の20分前にロビーに到着した私は、一つだけ空いているベンチに腰掛け、読みかけの小説を開いた。

私の両隣には落ち着きのない女子高校生がキャイキャイと騒いでいる。おおかた自由時間にどこに行こうかと話し合っているのだろう。うるさいな、とは思ったが私も大人なので我慢した。

 

「ねえ、なんか変な匂いがしない?」

 

ショートカットの女の子が突然、キョロキョロと周りを見ながら警察犬さながらに鼻をくんくんさせながら言った。私はひょっとしたら私の匂いかもしれないと、少しドキっとした。慌てて腋の下を嗅いで見るが何も匂いはしなかった。そして彼女同様に鼻をくんくんさせてみる。でも何も匂わない。

 

「え~?何にも匂わないけど」

 

もう1人の女子高校生が答える。だよな?気のせいだよな?

 

「あれじゃない?しゃらくさいんじゃない?」

 

「そうだよ。しゃらくさいんだよ。みゆの鞄だ!」

 

そう言うとみゆと呼ばれた子が自分の鞄を顔の位置に上げた。

 

「ホントだ!私の鞄だ。やだあ、しゃらくさい~」

 

え?

 

しゃらくさいの?

 

どうゆうこと?

 

私は猛烈に気になった。私の知っている「しゃらくさい」は前述のとおり生意気という意味だ。鞄が生意気?どうゆうこと?

 

ねえ、ちょっとおじちゃんにもその鞄の匂いを嗅がせてくれる?と言いたい気持ちをぐっと抑えた。

 

17番搭乗口のゲート付近にJALの職員が集まりだして、優先搭乗の案内をしだした。私は後ろ髪を引かれる思いで搭乗ゲートへ向かう。高校生より早く搭乗できることに対して不満はない、むしろ感謝したいくらいだが、「しゃらくさい」のがどんな匂いなのか気になる。

 

やがて飛行機は定刻どおり離陸した。私は手に持っていた小説を閉じた。「しゃらくさい」が気になりすぎて小説の内容が入ってこなかった。様々な可能性を考えてみるが、いかんせん、私と女子高生とでは年齢、つまりジェネレーションギャップがありすぎる。いくら考えてみたところで答えは出ないことは分かっていた。でも考えてしまう。

 

考えた挙句、私はあきらめた。寝よう。

 

背もたれにゆっくりと寄りかかり、私はすぐに深い眠りに就いた。ドスン、という衝撃で目が覚めたのはそれから2時間後だった。ああ、着陸したんだな、とは理解したがまだ頭はぼうっとしている。飛行機を降りたら、あとは帰宅するだけだから急ぐ必要もないし。私はゆったり準備をし、最後に降りることにした。私の脇を高校生達が降りていく。

 

先ほどの女の子が私の脇を通り過ぎようとした。あの例の鞄を持っているみゆちゃんだ。後ろをショートカットの女の子が着いてくる。匂いを指摘した子だ。

 

「ホテルに着いたら、おしぼり貰って拭いたらいいじゃん?」

 

「だよねえ、しゃらくさいもんね。」

 

まだ、言ってる。気になりつつも、私は飛行機を後にした。到着口から外に出て一旦、2階へ上がり国際線ターミナルに向かう通路を歩いた。最初に見えたエスカレーターで再度、1階に下り、駐車場へ向かう。

 

東京に比べると格段に寒い千歳の夜は雪がちらついていた。

 

寝ぼけた頭がシャンとした。 私は背筋を伸ばし、夜空に向かって大きく深呼吸し、つぶやいてみた。

 

「しゃらくせえ」

 

 

 

筆者からのお願い。

 

どなたか、ご存知の方がいらっしゃったら、コメントをお寄せください。あなたの周りの高校生が「しゃらくさい」を、どういう用途で使っているのかを。

 

 

ア~イライラスル。

 

 

合掌

 

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