って時期にあいつは変わった。
小学校からずっと友達だった。
運動が苦手で勉強が苦手で
目つきが悪く、ごく少数の人にしか
すかれないタイプの男だった。
勉強が苦手と言うより
生粋の ”馬鹿” だった。
リュージという自分の名前さえ
時々、間違うくらいの男で、
掛け算は3の段の途中で
あきらめたし、割り算に関しては
『俺は割らない人生を送る』
と豪語するくらい初期の段階で
あきらめていた。
最初にリュージの変化に
気づいたのは担任の先生だった。
ボクはリュージと同じバレー部で
担任の先生はバレー部の顧問だ。
まず、髪型が変わった。
スポーツ刈が伸びたような
髪型だったが終業式の前日に
整髪料を使ってオールバックに
してきた。
先生から、どうしたリュージと
聞かれたが面倒くさそうに
『うるせえよ、ほっとけよ!』
と反抗的な態度で答えた。
そんなことはこれまでに
無かったことなので先生も
もちろんボクも驚いた。
周囲にいたみんなも
『リュージが変化を始めた』
と行く末を心配した。
夏休みに入ったが部活動は
ほぼ毎日行われ、
7月下旬には新人戦も予定されていた。
が、リュージは次第に練習には
顔を出さなくなり、結局、夏休みの
終わりごろには部活動を辞めると
言い出した。
その頃には髪型は金髪になり
軽くパーマをあてて、リーゼントに
なっていた。
ボクはバレー部の先輩から
リュージの家に様子を見に行くように
指示されたので、彼の自宅を
訪ねた。
いままでならお母さんか
お姉ちゃんが出迎えてくれてたのだが
お父さんが出てきた。
リュージのお父さんはお酒を飲んでいた。
『知らんぞ!あんなドラ息子!』
と、にべもなく追い返された。
とぼとぼと自宅へ帰ろうとしたら
カドのところでリュージに
ばったり会った。
ヤツは盗んだバイクに乗っていた。
『どしたん?サトル』
『いや、お前、練習来いよ。
辞めるとか言うなよ。』
ボクは一応説得するような
言葉を発したが、本当はどうでも
良かった。
『あのさ、ウチの親父見たやろ?
毎日飲んだくれてさ。
結局、母ちゃんとも離婚して
姉ちゃんと二人で出て行ったんよ。
俺一人残してさ。』
ははあん。
そうゆう事か。
『で、それはいいけど
そのバイクはどうしたん?』
『先輩から買った。
先週の金曜日から先輩のチームの
集会にも出よるんよ。』
両親の離婚。
大好きなお姉ちゃんとの決別。
酒乱の父親。
盗んだバイク。
地元の暴走族。
金髪でリーゼント。
おお、ずいぶん教科書どおりの
グレ方だね。
ボクは翌日、部室で先輩に
リュージとのやり取りを
報告した。
本人にやる気が無いなら
しょうがないな。あいつは退部だ。
と結論が出た。
やがて2学期が始まったとき
リュージの変わった姿と
教室の中で堂々とタバコを
吸う姿に周囲は少し驚いたが
夏休み明けと言うことで
納得した。
ホームルームが始まる前に
変わり果てたリュージの姿を
見た先生が注意した。
『なんだその髪型は!』
『うるっせえよ!』
バキッ!ボコ!
リュージは先生に暴力を振るった。
クラスメイトの大半は ああ、と
ため息をついた。
両親の離婚。
大好きなお姉ちゃんとの決別。
酒乱の父親。
盗んだバイク。
地元の暴走族。
金髪でリーゼント。
プラス
夏休み中に変化。
校内暴力。
完璧ですね。
この日から、彼のことをみんなは
『典型君』と呼ぶようになった。
ただ、ひとつ残念だったのは
学生服が標準服のままだったことだ。
オシイ!
合掌