人懐っこい性格だと言ってしまえば
それまでだが、私は割と
誰とでも、いや、誰にでも
話しかける傾向がある。
東京に出張していたときのことだ。
山手線に乗って浜松町へ向かう途中、
車内は平日の昼間ということもあって
ガラガラだった。
渋谷で乗ってきた女性が私の正面に
座った。
彼女はしばらく私を見ており、
目が合うと恥ずかしそうに視線を
外した。
あれ?知り合いかな?
と思ったので、私もその女性の顔を
覗き込むように見てしまった。
よく見ると他人の空似だが
私が学生時代に最も嫌いだった
女の子にそっくりだった。
いや、もしかすると本人かも?
もう20年前だからなぁ、自信ないな。
名前も忘れたしなぁ。
モヤモヤするなぁ。
そもそも私がその子を
嫌いになったのは、嫌なひと言を
言われたことがきっかけだった。
『サトルくんって貧乏の匂いがするわ』
その時はあっけにとられ文句も
返せなかったんだ。
思い出したら腹が立ってきたな。
と思ったがこの子に罪は無い。
私は感情を殺し表情に出ないように
気を付けた。
いや、でも本人かもしれない。
どうしよう。どうしよう。
品川駅に到着した。
その子は品川で降りるようだ。
私はモノレールに乗るため
浜松町まで行く予定だったが
別に品川で京急に乗り換えても
空港へは行けると判断し
品川で降りた。
その子の後を追う。
『ねぇ、ちょっと。』
そう言って呼び止めた。
その女の子は、はっとした顔で
『はい、なんでしょうか?』
と返事をした。
『いえ、知り合いに似てるなぁ
と思って、でもその子とは20年くらい
会ってないから自信がなくて。
さっき、あなたも俺の事、見てた
でしょ?俺の事知ってる?』
言いながら、ああ、こういう言い方で
ナンパしたことあるなぁ、まずいな
勘違いされるかな、と思っていた。
すると驚いたことに
彼女はこういった。
『私も知り合いに似てると
思って、本人かもと思ったら
びっくりしちゃって』
え~!偶然。
でもその時には私はすでに
この子は本人じゃない。
だって若いもん。と結論を
出していた。
彼女はこう続けた。
『よく見ると、知り合いよりは
あなたの方が年齢が上みたい
なので人違いですけど』
なるほどお互い人違いで
かつ、他人の空似だったのか。
彼女は尚もこう続けた。
『正直言うと昔、好きだった人に
そっくりなんです。
すみません』
へえ、俺が大っ嫌いな女に似ている子の
好きだった奴に俺が似てるのか。
ややこしいな。
『偶然ですね。あなたも
私が仲良しだった子に
そっくりですよ。』と
小さなウソをついた。
『え!そうなんですか?
なんか偶然ってすごいですね。
今から旅行ですか?』
と私のキャリーバッグを指さして
言った。
『いえ、仕事で来ていて
今から札幌に帰るところです。』
『札幌の方ですか?
今だと景色も綺麗なんでしょうね?
失礼ですが何のお仕事ですか?』
彼女はずいぶん親密に話しかけてきた。
私は早くこの場を去りたかったので
『カツラ職人です。今夜は札幌で
松山千春のカツラの最終調整
をするんです。
じゃ、これで失礼します。』
と小さなウソを重ねた。
小さなウソだ。
チイサクナイ?
合掌