173発目 メッキがはがれる話。


ライナーノーツ

『ヤマシタさんは成功を手に入れたくないですか?』

その男は足を組みソファーにもたれかかるように
浅く座り、こう言って来た。

横柄なヤツだな

第一印象はそうだった。

親戚の結婚式で知り合った女性から
電話があり、会いたいといわれたので
私はポケットに下心を詰め込んで
待ち合せのホテルオークラに向かった。

その女性が私に紹介したいと言って
連れてきていたのがその男で
見た目が安いサムライみたいだったので
私は心の中で『素浪人』と呼ぶことにした。

『成功とは誰よりも稼ぐことです』

素浪人は達観したような顔で
私にそう説明した。

『絶対稼げる方法があるんです』

あー、これはあれだな。
ネズミ講みたいなヤツだな。
ピンと来た私はポケットの中の下心を
全て捨て去り、警戒体制に入った。

ところで。

 

地元の方言で嘘をつくことを
『アゴ』という。
嘘つきは『アゴシ』だ。
アゴとはアントニオ猪木のソレのことだ。

アゴシである私は素浪人にこう返した。

『実は財テクで当たって、現在の総資産は
200億くらいありますよ』

嘘で塗り固めたメッキはすぐはがれる?
ソレは分かっているがこの場面では
私は嘘をつくほうが得策だと
思ったんだ。
更に200億の内訳も細かく説明した。

素浪人は驚いて目を白黒させている。

『そのうちの10億をあなたに融資するから
来週までに12億にして返してよ。
残りはあなたに差し上げます』

そう言い放ったアゴシの私に
素浪人は、焦った感じでこう言って
席を立った。

『ちょっと用事を思い出したので
これで失礼します。』

翌日、その女性は私の父親にも電話し
私の資産の200億円の信憑性を
確かめたそうだ。つまり
私の話を信じたのだ。
詐欺師のあいつらが!

私の父親はいたって冷静に
『あいつはアゴシぞ。

俺の貸した千円も返さんのに

なんが200億か!』
と返答した。だまされたんか?ねえちゃん。と
詐欺師の心配をしたほどだ。

後日、別のホテルでパーティーに参加した後
1階のロビーで素浪人を見かけた。

私と目が合った素浪人は
絵に描いたような狼狽を見せた。

近づき話しかけようとした私に
こう言った。

『私と組みませんか?』

俺は詐欺師じゃない。

タダノアゴシダ

合掌

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