159発目 美しい水の話


ライナーノーツ

へぇ、じゃあ当時は水道局に
お勤めだったんですね?

午後一番でお会いした方は
品の良い初老の男性だった。

短く切り揃えた清潔な髪と
歴史を感じさせる節くれた指の
アンバランスさに思わず笑顔が出る。

若い頃は責任感とプレッシャーに
押しつぶされそうになったよ。

聞くと、綺麗な飲料水を全家庭に
届けるという公共性の高い部署だったそうだ。

そういえば公共料金とはいえ
水道以外は民間企業だな、と思った。

その頃は、安心して水道水が飲める環境を
一日も早く構築するんだという使命感に
燃えていたそうだ。

最近では断水することもなく
蛇口をひねれば当たり前のように
水が出てくる。
それというのも、こうして
水道局の方々が日夜がんばって
くれているからだ、と思うと
感慨深い。

特に小倉の水は我々の努力で
日本一綺麗な水道水だよ。
小倉のを飲むと他所の水道水は
飲めたもんじゃないね。

こんな自慢も嫌味に聞こえない。

では、そろそろ行きますね。

私は靴を履き玄関を出た。

彼はちょっと待って、と
奥へ引っ込んで行った。

女房に先立たれてから
来客があまりなかったので
お茶も出さずにすみませんでした。
これ、帰りの車でどうぞ。

なんて気遣いだ!
私はこの初老の男性を
好きになりかけていた。

差し出されたペットボトルを
受け取り礼を言う。

ありがたくいただき…

ん?ミネラルウォーター?

オイ!

合掌

“159発目 美しい水の話” への3件の返信

  1. うはははは(笑)(笑)(笑)

    も~……(笑)何も言えない(笑)
    名物人物すぎるよ!(笑)
    朝から、いやあ笑った笑った!

  2. ピンバック: 正解発表 | ライナーノーツ

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