664発目 奇妙な話。(真相は究明できるのか?)


THE DOORSの名曲の一つに「strange days」という楽曲がある。

直訳すると「奇妙な日々」だ。

その日の私はまさに「Strange Day」だった。

 

 

月に一度ではあるが、東京の日本橋に取引先の訪問のために訪れることがある。 地下鉄銀座線の「三越前」という駅で降りて、総武線の新日本橋駅方面へてくてくと歩いて向かう。

 

頭上を首都高速1号線が走る、大きな幹線道路の手前、本町交番の裏に小さな公園があり、そこは昼食を終えたサラリーマンが休憩しに集まる場所のようだった。その脇にある歩道橋を上がって、幹線道路の反対側へ渡るとそこにも小さな公園がある。 こちらはほとんど人気がない。

 

石で作られたベンチが二つあるだけの簡素な公園に、一人の年配の男性が座っていた。

 

よれよれのスーツを身にまとい、膝の上においたビジネスバッグからビニール袋を取り出した男性は、その袋の中から、ポップコーンを取り出して、自分の周囲に集まる鳩にそれを与えていた。

 

ベンチに座る男性の傍らを抜けて、私はお目当ての取引先が入居するオフィスビルへ向かった。

 

受付で来意を告げ、担当者を呼び出してもらう。 定期訪問であるから、たいした商談もなく、面会はすぐに終わると思っているのだが、案に相違していつも訪問すると小一時間は話し込んでしまう。

 

最近の建設業界の話や、不動産業界の話などで盛り上がる。

 

「では、また、何かありましたらよろしくお願いいたします。」

 

と定番の挨拶で会談を締めくくる。

 

受付の女性に軽く会釈をしながらオフィスビルを出て、元来た道を戻ろうとする。ふと腕時計を確認したら13時50分を示していた。 お昼休憩が終わるであろう時間を見計らって訪問したので、今回もおよそ50分の会談だったな、と苦笑いした。

 

それにしても、と思う。

 

それにしても、月に1回だけ、それもたった50分の雑談で「何かありましたら・・」と仕事を欲しがるなんて図々しいな、オレも、と思わざるを得ない。 しかし、それも仕事だ。 私という人間を知ってもらうための必要な雑談なのだ、と気持ちを切り替える。

 

とは言え、雑談で私という人間を知れば知るほど、仕事は一緒にしたくないな、と思われる可能性を無視できない。営業とはこの辺のバランスが非常に難しい。

 

最終的には権威ある人に相談し、しかるべきアドバイスを受けなくては、と考える時期にさしかかったいる事実を認識すべきだな。

 

 

などと、小難しいことを考えながら、先ほどの公園に来て見ると、まだあの男性が鳩にポップコーンを配布していた。

 

ってことは、あれから50分ものあいだ、ひたすら鳩と戯れていたのか、この人は?

 

と驚きを隠せない。

 

 

「あんなちっちゃなビニール袋のどこに50分も配り続けるだけのポップコーンが入ってるんだろう?」

 

 

違う違う、そこじゃない!

 

 

気になるなぁ。このおじさん、何をやってる人だろう?

 

ライナーノーツを過去からずっとご愛読されてる賢明な読者の方々なら、すでにお分かりのことだろう。 そう、ヤマシタはこういう人を見ると我慢ができなくなる。

 

案の定、私はそのおじさんの隣にそっと腰掛けた。 そして思い切って話しかけた。

 

「何袋くらい持って来てるんですか?」

 

突然、横に座ってきただけでも怪しいのに、話しかけてきたぞ、こいつ、という目でおじさんは私をみつめた。そして私のつま先から頭のてっぺんまでをゆっくりと眺めた挙句、ようやく口を開いた。

 

「二袋ですよ。」

 

 

持っとったんかい!

 

「この公園にはよく来られるんですか?」

 

この質問を投げかけた時点で私には一つの確信があった。

このおじさんはどこかの会社でリストラになって、でも家族には会社を辞めたことが言えずに今日もこうして時間をつぶすだけのためにポップコーンを持って公園に来た、というストーリーを描いていた。だから変化球は使わずに直球で質問を続けた。

 

「鳩に餌をやることだけが目的ではないですよね?」

 

おじさんはその質問には答えずに、目の前の首都高速道路を見上げた。

 

「あそこに、茶色のビルがあるでしょう?あのビルは賃貸マンションなんですよね。そして私が本当に用事があるのはあそこの8階の一部屋なんです。」

 

あれ? なんだか予想と違う方向に話が進んでいるな。

 

「公園で鳩に餌をやるのが目的ではない?と。」

 

「あ、もしかしてリストラ親父とかって思っちゃいました?違いますよ。」

 

「あそこの8階になにが?」

 

「それは業務上の秘密なんです。ははは。」

 

おじさんはそう言って立ち去って行った。おじさんの立ち去った後のベンチにはまだ少しポップコーンが残った袋が置き去りにされていた。

 

なんとも奇妙な話に困惑したが、私はその袋を手に取り、残ったポップコーンを鳩に向かって投げつけた。 正面から歩いてくるお巡りさんが、私に近づいてきて、笑いながらこう言った。

 

「若いんだから、あきらめちゃダメだよ。」

 

オレはリストラされてない!

 

教訓;

公園でサボってるからと言ってリストラ親父とは限らない。

 

ナンダッタンダロウ?

 

合掌

 

尚、私は真相を究明すべく、5月の下旬にもう一度この公園を訪れる。

 

 

 

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