647発目 誰かと間違われる話。


寒波がどうとかで、ここ数日の横浜は寒い日が続いた。

 

だが、北海道での暮らしに慣れている私にとってはどうってことのない寒さだった。 それでも、その寒さが嘘だったかのように今日は晴れて暖かかった。

 

雲ひとつない青空は道を行く人々すら笑顔にさせるし、遠くに見える富士山も心なしか堂々として見える。

 

気温も10度を超え、日中であればコート無しで歩いてもまるっきり寒さを感じない。

 

 

こうゆう時に困るのは車の温度設定だ。 暖房を入れると暑いし、窓を開けると少し寒い。 私は暖房をガンガンにかけたうえで窓を開けて走るという、およそ「エコ」とは無縁の方策を選択した。

 

ラジオではマーク・レイという外国人が、日本で就職するためのクラウドファウンディングを立ち上げたニュースを報じている。 本人も出演しているようだ。

 

「私はアーバンキャンパーです。」

 

都会でのキャンプ? そりゃ、ただのホームレスだろ? と突っ込みたくなった。

 

 

取引先を訪問した後、次の訪問先まで少し時間があったので、コンビニエンスストアに寄り道した。

 

駐車場に車を停め、エンジンを切る。 この動作が不思議に感じられる。 というのも、北海道であればコンビニに少し寄るくらいであればエンジンはかけっぱなしだからだ。 5分でもエンジンを切ると車内がコッテリと冷えてくれるから、ガソリンがもったいないとか関係なくエンジンはかけっぱなしだ。

 

「停車中はエンジンを切りましょう。地球に優しく!STOP温暖化!」

 

という看板が北海道のあちらこちらに立てられてたが、ドライバーはみんなエンジンを切らない。 できれば温暖化になって欲しいと思うくらい寒いからだ。

 

しかし、横浜ではそうは行かない。 騒音の問題もあるからな。

 

キーホルダーもつけてない車のキーを右手に持ち、ドアをバン!と閉める。 ふと、車内に残したゴミ袋が気になった。

 

会社の車だし、いつまでもゴミを車内に置きっぱなしなのも、みっともない。 コンビニの外にはゴミ箱が並んでいる。 よし、捨てよう。

 

これが北海道だと、こうは行かない。 コンビニで外にゴミ箱を置いている店など皆無だからだ。

 

何故か? 雪で潰れるからだ。

 

店内にゴミ箱を置かれると、どうにも捨てにくい。 「あんた、それ自宅で出たゴミじゃないの?」 と疑われそうだからだ。 何を隠そう、私は気が小さい。

 

だから横浜のように外にゴミ箱を設置してくれていると、非常にありがたい。

 

私は、もう一度車のドアを開け、上半身だけを車内にもぐりこませて、ゴミ袋を手にした。

 

思えば、私のミスはこの時点で始まっていたんだ。

 

右利きだから右手でゴミ袋を取る。 当然だろ? 車のキー? 右手に持ってた。

 

ぽいっとゴミ袋をゴミ箱に投げ入れた瞬間、車のキーがないことに気がついた。 ゴミと一緒に捨ててしまったのだ。

 

ありゃりゃ、こりゃいかん!

 

私はすぐにゴミ箱の蓋を開け中を覗いてみた。

 

小さな車のキーは見える範囲には無い。 きっとスルスルとゴミの間を通り抜け、下のほうに落ちていったのだろう。 あきらめられるもんか! あのキーが無いと車に戻れない。

 

仕方ない。 私は決心をしゴミ箱の中に手を突っ込んだ。 右手の先に固いものを感じた。

 

そのとき、背後から声がかかった。

 

「ちょっと、何してるんですか?」

 

私は後ろ向きのまま、左手で「ちょっと待って」のポーズを取りながら、指先に感じた固いものを掴み、なんとか引き上げた。 車のキーのサルベージだな。

 

無事に車のキーを救助し、後ろの声をかけてきた女性に向き直った。

 

「最近、ゴミ箱を荒らしてる人がいると思ったら、あなただったの?」

 

腕を組んで私を睨みつけている。

 

「いえいえ、私はこの車の・・・・」

 

「ここには本当のゴミしか入ってないんだから、漁るなら他所に行って頂戴!」

 

 

・・・・・・・・?

 

 

え?

 

 

オレ?

 

ホームレスに見えるの?

 

バッチリとはいかないまでもスーツ姿だよ。

 

女性の店員は、私を押しのけるようにして、ゴミ箱に入っている袋を回収していた。

 

 

背中からは 「あなたの陳腐な言い訳なんか聞きたくありません」 というオーラを放っている。

 

誤解されたままというのも腹立たしいが、もう二度と会わないだろうから、と怒りを腹の奥底に押さえ込んだ。

 

青すぎる空と白い太陽が私を嘲っているようだった。

 

 

マーク・レイジャアリマセン

 

合掌

 

補足;ちなみにこんな人。
https://motion-gallery.net/projects/hommeless

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