638発目 高齢者問題の話。


ライナーノーツ

この街に来ると結構な確率で、おかしな出来事に出会う。

 

 

コンビニから出てくると、私の車の横で言い争いをしている人たちがいた。

 

70過ぎと思われるじじいと、60手前くらいのガラの悪いおっさん、それにお巡りさんが3人、それぞれが向き合う形で立っている。 ボクの車の運転席のドアの横で、だ。

 

「ふざけんじゃねえよ!あんな運転して!事故でも起きたらどうすんだよ!」

 

60前のガラの悪いおっさんが叫ぶ。 負けじと、じじいが叫び返す。

 

「間が空いてたから入ったんだよ、こっちは!ウィンカーも出してただろ!」

 

どうやら割り込みをされた60前のおっさんが、割り込みをしてきたじじいの車を止めて文句を言ってるところにお巡りさんが来たらしい。

 

「まあまあ、ご主人。 どこも当たってないんでしょ? だったら今後は気をつけるってことで終わりにしませんか?」

 

「うるせえな!オマワリは黙ってろよ!オレはこのじいさんと話してんだよ!」

 

「お巡りさん、このガラの悪いヤカラを捕まえてくださいよ。言いがかりですよ。」

 

「謝れっつってんだよ!」

 

「何でワシが謝らなきゃならんのだ!」

 

 

いやいや、そんなどっちが悪いかなんてどうでもいいから、別の場所でやってくれんかなぁ? 車に乗れないじゃないか、と思うがとても口を挟める雰囲気ではない。

 

「じじい、ろくすっぽ運転出来ねぇんなら免許証を返納しろってんだよ!お巡りさんよぉ、こんなじじいみたいな運転してたら、どうせアクセルとブレーキ間違えて踏んでよぉ、小学生の列に突っ込むぜ!ほら、免許出せよ!お巡りさんに返せよ!」

 

「いやいや、ご主人。ここで出されてもどうしようも出来ないんだよ。返納は免許センターに行ってもらわなきゃさ。それかご自宅の管轄の警察署でもいいんですよ。お父さん、ご自宅はどこ?」

 

「ワシは川崎だよ。高津区。」

 

「だったら高津警察署だね。 分かりますか、場所? 溝の口のところの。」

 

「ふざけるな!免許はとっくに返したわい!」

 

 

え?

 

 

一瞬、ボクを含めてじじい以外が凍りついた。 返したの? だったらさ・・・

 

「何言ってんだじじい!免許返したんなら車乗ってお前ぇ、おい!」

 

60前のおっさんがしどろもどろになった。 お巡りさんはさすがに落ち着いている。

 

「あのね、お父さん。 念のため免許証見せてくれる?」

 

「だからぁ、免許証は返納したって言ってるだろ。」

 

「だったらお父さん。無免許運転だよ。 私達これからお父さんのこと交番に連行しなきゃなんないよ。」

 

「なんでだ? ワシャ運転出来るぞい。」

 

この時、ボクはぴんと来た。 このじいさんボケてる。

 

ってことは、このガラの悪いおっさんがやったことは意外にもファインプレイじゃない?

 

「はい、じゃあちょっとこっち来て。」

 

二人のお巡りさんがじじいをコンビニの駐車場の隅へ連れて行った。 残ったもう一人のお巡りさんが、オッサンに話しかける。

 

「ちょっと、すみませんねご主人。 事件になっちゃったよ。 詳しいお話聞かせてくれる?」

 

「ああ、いいぜ。 あ、だけどよ、オレもあんま時間ねぇんだよ。後で行くからよ、ちょっと先に用事済ませてきていいかな?」

 

「うん、だったらご主人、念のため免許証見せて。」

 

「え?何で?オレは何にもしてねぇのにかよ?」

 

「うん、一応ね。念のためだよ。」

 

あれ?

 

おっさん、明らかにウロが出てるなぁ。

 

財布をお尻のポケットから取り出し、免許証をしぶしぶ取り出した。それをお巡りさんに差し出す。

 

「え~っと、あれ? これ、ホントにご主人? 写真と随分違うじゃん!」

 

 

な~に~!

 

なんと! こっちでも事件が~!

 

ボクの車の横で一度で二つの事件が~

 

「いや、それはよ、なんつうか・・・」

 

すげぇ、絵に描いたような狼狽を見せてる。

 

「なんだよ!オマワリってのはデリカシーがねぇな!」

 

ああ、逆ギレだ~。

 

「それはよ! あれだよ! まだカツラ持ってねぇときの写真なんだよ!」

 

事件じゃねぇのかよ! ハゲかよ!

 

 

「ああ、そうかそうか。それは失礼しました。 いやしかし、随分印象が変わるもんだねぇ。」

 

 

お巡りさんもバツが悪そうだぞ。

 

「おら、返せよ!ったく。」

 

「あれ?ちょっと待ってご主人、これ。」

 

「なんだよ!まだ何かあんのかよ!」

 

「おたく、これ更新期限過ぎてんじゃん!」

 

「え? まじで? あ! ホントだぁ。 マジかよ~! え~? オレどうなんの~?」

 

「じゃ、一緒にそこの交番まで来てもらおうかな?」

 

「あれ?これ更新って何年に1回だっけ?」

 

「ご主人のはブルーだから3年に1回だね。」

 

「ちっきしょー! ってことはもうかれこれ3年も俺の誕生日祝ってもらってねぇってことじゃねぇか!」

 

どうやら、歳を取ると誕生日を祝ってもらえず自分の誕生日が来たことさえ気がつかないようだ。 本当の高齢者問題の根本ってそうゆうとこだろうな。

 

しかし面白い街だな。

 

カワサキク

 

合掌

 

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