633発目 面倒くさい話。


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夜のリビングに妻と二人でソファーに座って酒を飲んでいた。 テレビではバラエティ番組をやっていた。 私はその番組を楽しみにしていたので、できれば話しかけて欲しくなかったのだが、昼間にあった事や子供達の事などを話しかけてくる妻を止める術は持ってなかった。

 

酒の勢いと比例して妻の口も勢いを増す。 ここが肝心なところだ。 私がもし、適当な相槌でも打とうモンなら、目をポリンキーのように三角にして、ムスっとしてしまう。 せっかく機嫌よく喋っているので私は彼女の言葉を一つ一つ理解しながら真剣に相槌を打つ。

 

ふと、妻のお喋りがやんだ。

 

テレビの画面に釘付けになっている。 やれやれ、ようやく私もテレビに集中できるな、と安堵の息をつく。

 

生まれてこのかた、恋愛などをしたことのない男女が集められて何やら討論をしている。

 

「全員、若い人ばっかりやん! どうせ、30過ぎたらひょっこり恋人が出来て結婚するんやろ!」

 

妻はテレビに向かって悪態をついていた。

 

アナウンサーが総務省の統計を発表していた。 今年、成人式を迎えた男女にインタビューした結果がフリップにまとめられている。 恋人がいない、もしくは欲しくない新成人が3年前の18%から37%に増加していた。 ある有識者が意見を求められ、こう答えた。

 

「このまま若者の恋愛離れが進むと、少子化問題が更に困窮を極め、もっといえば消費活動にも影響が出る。」

 

恋人を作る、もしくは恋人がいる状態の人の方が、いない人に比べ数倍も消費が多いそうだ。 それもそうだな。 デートで食事に行ったり、プレゼントを買ったりするもんな。

 

一人の男性がこう主張していた。

 

「だって面倒くさいですよ。 一生独身で構いません。」

 

別の女性はこう言っていた。

 

「誰かに自分の時間を割くなんて考えられない。 待ち合わせや電話やメールも全て面倒くさい。」

 

司会者が、その女性に話しかける。

 

「誰かに無性に会いたいとか、一緒にいたいとか思わないの? あなた可愛いからもてるでしょ?」

 

「もてると思ったことはないし、できれば一人にしておいて欲しい。面倒くさい。」

 

 

妻は我慢できなくなったのか、また喋りはじめた。

 

「何が面倒くさいよ! なんでもかんでも面倒くさがってちゃ何も出来んやろうも。 ウチの子達にはこうなって欲しくないね。」

 

「でも、ウチの子達も片づけが面倒くさいとか、宿題が面倒くさいとか言うやろも?」

 

「そんときは叱り飛ばすよ。面倒くさがるの禁止って。」

 

 

やがて番組も終わり、空いたグラスを手に妻が台所へ行った。 私はお代わりを頼んだ。 ソーダを入れ氷をグラスに入れた後にウィスキーを注ぐ、これが妻のハイボールの作り方だ。先にソーダを入れるのがミソらしい。

 

グラス二つを手にソファーに戻ってきた妻は私にこう聞いた。

 

「明日の晩御飯、何がいい?」

 

私はちょっと考えてからこう答えた。

 

「久々にコロッケでもどうやろか?」

 

ここで、何でもいいよと言うのを妻が嫌うことも承知しているから、しっかりと考えて自分の意見を述べた。

 

妻は黙ってウィスキーハイボールを一口飲んだ。 コトリとテーブルの上にグラスを置くとこう言った。

 

「いやよ、面倒くさい」

 

 

オイ!

 

合掌

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